無題5 # ページ8
『夏の雨』
外は、雨が降っていた。短時間に、勢いよく降る雨で、それは夏が近づいている証拠。
体の内側を掻き乱されるような気持ち悪さと、白い光と、雨の音が酷く歪んでノイズとなって入ってくる。タオルケットを頭から被って、やり過ごしていた。
トントンと叩かれた肩。瞑っていた目を開けば、にぃちゃんが向かいに座った。
「我慢しないで、吐いちゃっていいよ」
動く指はそう伝える。それには嫌だと首を振って、
「照くんに会いたい」
と、聞こえる人から見れば、酷くまるい言葉で訴えた。えーっと、にぃちゃんの眉が下がる。
「今日、雨だよ」
「だからだよ」
「…にぃちゃん、これからバイトなんだけど」
それでも、嫌だと譲らなかった。
にぃちゃんの黒目をじっと見た。吐き気の為か、悲しくなくとも視界は潤んで歪んでくる。
「…分かった、ふっかさんに連絡してみるよ」
にぃちゃんの指がそういったのを見届けて、もう一度目を瞑った。
「…ラウ、大丈夫かな」
ソファーで腕を目の上に置いて、そう呟いたのが聞こえた。頭痛で寝込んでいるあなたは自分の心配をしなさい、と言いたくなったが、そこはゴクリと言葉を飲み込んでおく。
握っていたスマートフォンが、手の中で震えた。表示された画面には、蓮の文字と、着信を告げるマーク。
「ほら、噂をすればってやつだ」
もしもし、と出れば、ふっかさん、と困った声がすがりついて来る。
「俺これからバイトなんですけど、弟が照くんに会いたいって言って聞かなくて」
「大丈夫、おいで。うちで見とくよ。バイト夜まで？」
日付が変わるくらいまでで、と彼が言ったので、泊まれるようにしとくねと返す。すみません、ありがとうございますと、電話は切れた。
「ラウ、来るってよ」
そっか、と嬉しそうな声は溶けていく。
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作者名：ハルタ | 作成日時：2022年5月20日 7時
