こういうのが読みたい4 (ページ34)

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刺された。

血は黒いスーツが吸い取って、呻きは噛み締められた歯によって漏れだすことはなく。何が起きたのかは、客とヒカルとこの部屋だけが知る。

「俺はね、人狼が大っ嫌いなの」

大っ嫌いの言葉に、この客が持つありったけの嫌悪が込められていた。グッとナイフごと、引き戸の近くの壁に押し付けられ、行き場のない呻き声が喉を鳴らす。

ナイフを引き抜かれて解放された体は、一気にぐしゃりと床に崩れる。

「ほらほら、座ってたら店主来ちゃうよ？君の相棒だろ、きっと。心配かけていいのかな？」

人狼が、相方と認めた人間に心配をかけさせたくない生き物だということを、この客は知っていた。耳元でそう囁かれ、痺れる足を無理やり立たせて体を引き起こす。

「ナイフには、痺れ薬を塗ってある。いつまで持つかな？見物だわ」

失礼します、と何事もなかったように部屋を出た。途中で、遅かったね？とレモネードを持ったふっかとすれ違う。それには知らん顔して、キッチンに戻った。大丈夫、まだ気が付かれていない。

出てきているであろう血は、黒いスーツが全て吸い取ってくれている。大丈夫、まだ大丈夫。洗い途中の皿を手に取った。シンクの中身が、2重にぶれて見えてくる。足から、変化が戻ってきた。ふらりと傾く体。咄嗟にシンクの縁を掴んだ。

「…くっ、」

どんどんと狼の姿に戻っていく。ついに、キッチンの床に横たわった。目を閉じて、呼吸を整えることに専念する。

意識が落ちる前、遠くで、水の音がしていた。