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部屋の隅に折り畳まれっぱなしのローテーブルを引き出して、阿部ちゃんの手によって、アイスや諸々が入ったビニール袋が置かれた。
キッチンを借りて、簡単なご飯をこしらえる。シンクが綺麗なままだった。きっと、この前掃除してから、あまり使われていない。
「…2人とも、アイスの前にちょっとでも食べて。特に蓮は食べる。じゃないと、薬飲めないからね」
目の前にご飯を出しても、なかなか手をつけようとしなくて、痺れを切らした阿部ちゃんがそういった。
食べていいのか分からない。
2人とも、悲しい目をしている。
やっと蓮が重たい手を動かした。
それを見て、ラウもスプーンを手に取る。
はぐりと1口含んで噛みながら、涙が蓮の頬を伝った。熱のせいにして、互いに見ないふりをした。うんと高い熱が出ただけだから。
アイスと薬をお腹に入れて、蓮はまた横になった。狭いベッドで、ラウも隣に入れてと入っていった。
「ねぇ、」
ベッドと対面の壁によりかかって、気持ちよさそうに眠るふたりを眺めていた。キッチンからは水の音。阿部ちゃんが、さっきの食器を洗っている。
「いっぱい人がいた方が、毎日楽しいよ。きっと。提案だけでもしてみたら？」
皿についた泡を流しながら、阿部ちゃんはそう言った。言いたいと思ったことは、言わずとも伝わっていたらしい。そして、それには賛成のようだった。
窓際に立てば、眼下の家の屋根の隙間から、白い水面の煌めきが見える。あの日もこんな感じで、ここからあの海を見つけたのだろうか。
海の中で振り向いた時の光の無い蓮の顔が、頭の中を過ぎっていった。絶望という感情が、彼を覆っていた。少しでも、プラスの方向に変わってくれていたらいいけれど。
安らかな2人の寝息が部屋に溶けていく。
それをもうしばらく、守っていたいだけ。
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作者名：ハルタ | 作成日時：2022年5月20日 7時
