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阿部side
リビングから照の声で俺のことが呼ばれた時、俺よりも早く佐久間が部屋を出ていった。
佐「ラウ、またやったみたい。最近、不安定になっちゃってるね。」
「大丈夫かな、」
呼ばれる少し前、部屋でそんな会話をしていた。阿部ちゃんのことも心配だよ、と彼は俺の手をとる。
最近また、手の傷が増えてきた。
白い手に赤い線たちがいくつも滲む。
これは彼に見せられないなと、自分の手を見つめる。
なかなか帰ってこない彼に、リビングの入口からそっと覗けば、佐久間の肩にラウールくんが頭を埋めていた。寝てしまったみたいだと、佐久間は俺に教えてくれる。
ちゃんと寝かせてあげたいの思いから、佐久間はごめんねと彼をリビングに横たわらせる。申し訳程度に、頭にソファーのクッションを挟んだ。
ブランケットの裾からちらりと見える包帯の手は、痛々しかった。最近落ち着いていたのにな、何かあったんだろうかとヒントが落ちていないか探す。
たまたま目に入ったカレンダー。ある日にちの枠だけが、色違いのペンで囲まれている。
誰がやったのかは分からないが、その日にちに覚えはある。
ふっかの命日。
俺と同じ、なのか。
最近、仕事で彼のことを思い出すたび、手に傷が増えている。
亡くなったのは事実ではなくて、いつの日かカランと入口を鳴らして、フラリと椅子に座りに来るんじゃないか、って。そんなことあるわけないけれど、心のどこかはまだ願っている。
安らかな彼の寝顔を、リビングにいた人たちで囲む。目黒くんは、包帯の手を握ったまま離さない。
「…消えちゃいそうだ、」
彼に会った時から抱いていた心の声が、初めて外に出た。
誰も話さないせいで、ポツリと言ったはずのそれはやけに大きく聞こえた。誰かの声が、かき消してくれたら良かったのに。
目「消えさせませんよ、」
絶対に、と付け足した彼と目が合う。黒目は光が差していなくて、黒いインクでベタ塗りされた様だ。
「生きる」ということに足を掴まれた僕らは、
きっといつか「崩壊」してしまうんだと思う。
ギリギリの今を生きている、んだと思う。
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作者名:ハルタ | 作成日時:2021年8月16日 12時