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爪が作る赤い斑点 * ページ8

ラウールside

これは一種の癖だ。

左手の甲、無意識に立てた爪の跡が半月状の斑点を作り出して、白かった甲をほんのり赤く染め上げている。

胸の奥が痛いのから気をそらすために、手の甲に爪を食い込ませる。それが癖になってしまったのは、いつからか分からない。



シェアハウスの中で、ベランダに続く窓を開け放って窓のサッシに腰をかけるのがお気に入り。

なぜならベランダから広がる青空を、視界いっぱいに捉えることが出来るから。高校の時好んで屋上に向かっていたのも、数ある理由の一つは青い空を見たかったから、である。

後ろに手をついて、今日の空を眺める。誰もいないリビングに、壁時計の秒針の音だけが響く。

目「また、やったの。」

いつの間にか来ためめは、片方だけ色が変わった手の甲を見つけたようで、そう言う。

目「爪切らないとね、」

やめな、とは言わなかった。
そして、すっとどこかに消えた。

しばらくして、ぱらぱらと視界の中に指が写り込む。何かと思って後ろを向けば、照くんが座っている。めめが声をかけたに違いない。

照くんの手が持った、包帯に目がいく。
それは、もう何度かお世話になっている。

これ以上はやらないように、と、照くんの手によって甲に巻かれていく包帯を、死んだ自分の目が追う。いつの間にか帰ってきためめも、隣に腰を下ろしてその様子を眺めていた。



包帯が巻き終わって、照くんは阿部さんの名前を呼んだはずなのに、僕の名前を呼んでリビングのドアを開けたのは、佐久間くんだった。そして、近くまで来るとむぎゅりと包み込まれる。

佐「手、痛い?」

「痛くない、」

全く痛くないよ。どうしてだろうね。

佐「なんかあった?」

「何にもない、」

何にもないけど、胸の奥が痛くて苦しいの。

佐「なーんもないか、良かった。」

よかった、のかな。

佐久間くんは、僕を包み込んで左右にゆらゆら揺れる。それに目を閉じて、ただ身を任せる。甲に爪を立てるよりも何倍も早く、心の波を落ち着かせてくれた。

包帯の手を包み込んでくれたのは、誰だったんだろう。

久しぶりにやって来た眠気に抗えず、
目を開くことは出来なかった。

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作者名:ハルタ | 作成日時:2021年8月16日 12時

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