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佐久間side
少し青い顔をして部屋に帰ってきた阿部ちゃんは、ドアを閉めるなり、ドアに背中をくっつけてずりずりと床にしゃがんだ。
俯く顔。荒くなる呼吸。
「あ、阿部ちゃん?」
構っていたスマホなど布団のどこかに飛ばして、阿部ちゃんのもとに向かえば、途切れ途切れの呼吸の中で何かを伝えようとする。
阿「…かる、が、」
「照が?」
阿「リ…グ、いる、」
「リビングにいるの?」
そう、と彼は頷いて、両目を閉じて呼吸を整えることにシフトしたようだ。
阿部ちゃんを半ば引きずって、ベッドにもたれかからせた。もう少しだけ一人で頑張っていてもらって、ドアを開けて斜め前、舘さん達の部屋をノックする。
なぁに?と出てきた舘さんに照のことをお願いして、再び部屋に戻れば、さっきより呼吸が荒くなっていた。
「もう、大丈夫。」
彼の対面にしゃがんで頭を抱えれば、力の抜けた体がくたんとこちらに寄りかかってきた。
何があったんだろう?
彼の右手に握られっぱなしのティッシュ。
少しだけ赤が滲む。
大方の理由はそれだけでわかった。
彼の右手からそれを抜き取って、ゴミ箱に投げる。白い塊は、大きく開いたゴミ箱の暗闇に消えていった。
…片付けに行ってくれたんだよな。
俺にはその光景を見せまいと、気がついたら居なくなっていた。舘さんも。
ふっかのことを頼む。と、それだけメッセージが入っていたっけ。
「…阿部ちゃん、俺生きてるからね。生きてる。」
じわりと濡れた右の肩。
頭を寄せてそう伝える。
「それと、ありがとうね、…片付け行ってくれて。」
…俺が、行けなくてごめん。
本心は小さく吐いた息と共に、部屋の中に溶かした。
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作者名:ハルタ | 作成日時:2021年8月16日 12時