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ふっかside
気だるい体をソファーに溶かしながら、買出しに行った彼の帰りを待っていた。
つけっぱなしにしてくれたテレビには、夕方のニュースが映り、レースカーテンのみが閉められた窓から、西日の濃いオレンジ色が部屋の壁を染めていた。
カーテン、引かないと。
壁のオレンジ色の四角をぼんやりと眺めながら、そう思う。体は動いてくれそうにないけれど。ぴたりとソファーにくっついて、自力では上がりそうにない。
「病院」の二文字がチラついた。
多分、貰った3日ここに居ることは出来ない。
初めから、わかりきっていたことだったけど。
「…照、早く帰ってこないかな。」
ソファーの上で仰向きに、天井に向かって声を出す。
うちの天井は、こんなにも白かったか。病室の天井を思い出して、体が自然に横を向いた。
早く帰ってきてよ。寂しいじゃないか。
…それに、一人じゃ何も出来ない、から。
それは前触れもなく、突然こみ上げてくる。来た睡魔に身を任せ、片足を突っ込んでいた時だった。
「ーっ、」
この時ばかりは体も跳ね上がって、シンクに駆け込む。余裕のない頭で、汚しちゃいけない、それだけを思ったのだと思う。
だから、こみ上げてきたものが赤かったり、鉄の味がしたり、手で押さえても止まらないことなど目の前で起きている事なのに、それが何なのかよく分からなかった。
口元を押さえる両手の指の隙間から、鈍色のシンクに一つまた一つと赤い雫が垂れて、残っていた水が歪に歪ませた。段々と上体が丸まっていく。がくり、と足の力が抜けてシンク下のドアに頭を打った。クリーム色のキッチンマット、自分のグレーのスゥエット、視界がじわじわと赤で埋められていく。
…照、助けて。
声にならない声は、ちゃんと届いたのか。その結果を知れないまま、上体が床に打ち付けられた。
もう、痛みは感じなかった。
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作者名:ハルタ | 作成日時:2021年8月16日 12時