鉢植え 3 (ページ27)

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「あと、もうひとつ頼みたいことがあって」

「なに？」

「…花の配達なんだけど」

花の配達というワードに少しだけ反応して、ラウはテーブルの上のメモ帳を手繰り寄せた。

「なんだか、阿部くんみたいだ」

嬉しそうに、悲しそうに、寂しそうに。
ラウの声はどれとも取れた。

「3区のおじいちゃんの誕生日用で、落ち着いた雰囲気の花束を、来月の中旬までにお願いしたい。住所は後で送る」

「了解」

開きっぱなしの休憩所の入口から外を見ていたじいちゃんが、僕らの足元で小さく吠えた。2人揃って窓の外を見れば、空から花が降るところだった。

「見に行こう」

エプロン姿の彼の後を追う。ここに来てからしばらく。彼には、花守の仕事が似合うと思う。

落ちた花はビバリウムの地面に根付いて、光を得るために、空に向かってその体を伸ばす。その隣に、白い紙が落ちているのが気になった。拾い上げて、紙を走る文字を見れば懐かしい筆跡が。

(ラウール誕生日おめでとう)

「ラウ、これ」

少し離れたところにいたラウにこの紙を見せたら、カードが落ちてくることはたまにあるんだ、とあえて内容には触れなかった。ただ、少しだけ目が潤んでいた。

「…誕生日だったんだね、僕。日付や時間がこっちには存在しないから忘れてたよ」

「佐久間くんの文字に見える」

「花束のチョイスは、阿部くんだ。きっと」

「そろそろ戻るよ。また来る」

「気をつけてね」

「夏、帰るだろ？向こうの世界」

「もちろん。一緒に行こう」

みんなに会いに行かないと。
花束とあのカードを持って。