鉢植え 3 (ページ26)

今日:63 hit、昨日:158 hit、合計:63,207 hit

向こうの2人 ✲ ページ26

3区のビバリウムの休憩所を覗いたら、ラウがイタズラな笑みと共に、

「あら、支援課の目黒さん、どうされたんですか？」

なんていうから、こちらも、

「管理課花守(はなもり)のラウールさんに用事があって」

と答えてやれば、堅苦しいのは無しだと、ラウが先に白旗を振った。

「じいちゃんは？」

花守の仕事は、人と動物がペアを組み行うことが決まりとなっている。ラウのペアは白い狼犬。大きな見た目にそぐわないとても温厚な生き物で、ほのぼのとした空気で包み込んでくれるから、俺もラウも(じいちゃん)というあだ名で呼んでいる。

「真ん中で、花に埋もれて寝てると思う。呼んだら来るよ」

休憩所のドアから頭だけ出して、目の前の広大な花畑に向かい名前を呼べば、遠くから白い塊が走ってくる。しゃがんで待っていれば、直前で速度を落とし、来たの？と嬉しそうに俺の前に座った。そんなじいちゃんの背中に顔を埋めさせてもらうのが、ここに来た時の密かな楽しみである。

「お楽しみ中に悪いけど、なんの用件で来たの？」

「9区のおばあちゃんに花をあげたくて、ちょっと分けてもらおうと」

「9区のおばあちゃん、何色が好き？」

「赤とか黄色とか明るい色が好きだ、って聞いたかな」

「わかった」

そういうと、花切りバサミを手に、ラウは休憩所を出て行く。しばらくすると、ちょっと多くなっちゃったとはにかみながら帰ってきて、大きな片手にいっぱいの花たちを器用に紙で包んでくれた。

「様になってんじゃん」

「まだまだ勉強中だよ」

はい、と色とりどりの花の束が、ラウの手から俺の胸元に移されるのであった。