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佐「あ、阿部ちゃん、おかえりー、」

玄関を開けると、リビングのドアの先からひょっこり顔を出す佐久間と目が合った。彼はまだワイシャツ姿で、帰ってきて間もない様だった。

佐「って、お店のエプロンしたままじゃん!」

てとてとと、廊下を歩いてきたかと思えば、おもむろに自分の腰を指差す。

「え?」

彼の指の先をたどれば、店用の黒いエプロンが巻かれたままだった。これを付けて駅に向かい、これをつけたまま電車に乗って帰ってきたらしい。

それもそうだ、店を閉めてからの記憶が曖昧なんだから。

店を閉めたのは覚えている。次は何故か家に居て、佐久間が出迎えてくれた。その間の記憶が、ぼんやりとしていて。それくらい掻き乱されるほど、ふっかとの出来事が濃かった。

佐「阿部ちゃん、お疲れだね。」

よしよしと少し背伸びをして、彼の手が俺の頭を撫でる。

泣きそうだった。

なんてことない事だろうに。
視界の裾がじゅわっと、滲んできた。

「…ちょっと横になってもいい?」

佐「もちろん、でも、その前に、」

彼は、俺の両手をとる。

「え?」

佐「手の傷、ちゃんと消毒してからね。」

言われて見た自分の手の甲には、猫にひっかかれたように赤い線が何本も滲んでいた。今日の午後、集中力のない中、花達を触ったものだから、葉っぱか棘かに引っかかったのだろう。



でも本当に引っかかれたのは、心で
引っ掻いたのは、ふっかだった。

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作者名:ハルタ | 作成日時:2021年7月2日 13時

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