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渡辺side
そっちのビニール袋にアイスが入ってるからね、とまだ車の中にいる阿部に声をかけられた。はいはい、とあしらいながら玄関の鍵を開ける。
鍵を開けた先で迎えたのは、げほげほと重たい咳の音。心做しか廊下を歩く足取りが早くなる。
「照ー?…大丈、夫」
彼はソファーにいると思っていた。
先に、キッチンの冷凍庫に、アイスを閉まってしまおうと思っていただけだった。君のために買ってきたアイスが溶けないように、とただそれだけだったのに。
照は、台所の狭いスペースに大きな体を縮こませて、ぺたりと座りこんでいた。口元に当てられた指の隙間から、つうっと何本もの赤黒い線が、彼の手の甲を汚す。
「…照!ねぇ、照!」
手から滑り落ちたビニール袋が、床に叩きつけられた。ガシャリと大きな音がして、その音に反応した照とようやく目が合った。ぼんやりとした視線が、ゆっくりと俺を捉える。
「阿部、救急車!早く!」
キッチンから頭を出して、声だけ廊下の方に投げた。大声を通り越して、ほぼ怒声だった。
「照、大丈夫、大丈夫だから、ね、」
シンク下の扉にかかっていた、タオルが目に入った。それを引き抜いて、照の口元に当てる。視界に写った微かな白さえも、じわじわと赤が染めていく。
とまれ、とまれよ。とまってくれよ。
このままじゃ、照が。お願いだから、
阿「救急車、もう少しで来るって!お願い、照、頑張って、」
阿部は照の背中を擦りながら、佐久間と涼太に電話をかけ始めた。ふるふると震える手での、片手操作は難しく、何度も携帯を落としそうになっている。
視界一面の赤と、
血に染まった自分と彼の手。
照の体が、ぐらりと揺れた。
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作者名:ハルタ | 作成日時:2021年7月2日 13時