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照side
夢を見た。
これが夢だとわかったのは、ベットサイドの椅子にふっかが座っていた、から。
目を開けた。
視界の先には灯りの落ちた天井。
上体を起こせば、右側の窓から夜の街が見えた。
黒に近い紺色の空には、大きな月が登っている。
満月だった。
その月明かりに照らされて、彼はベットサイドの椅子に座っていた。
「…ふっか、」
よ、と手が上がる。
久しぶりに見た猫背に、なんだか安心した。
変わりすぎた環境の中で、変わらないものを見つけられたからかもしれない。
夢でも、病院着の姿を見られたくなかった。
ふっかには元気だよって言い続けたかった。
「…どこまで知ってる、」
ふっかの目を見れなかった。足にかかった布団の皺を見つめながらそう言えば、病気になったことは知っている、と答えた。
深「入院を選んだのね、」
今日、救急で運ばれて、入院を選んだ。最後の最後まで、選びたくない選択肢だった。
「…病気を治すためにね。」
口から出たのは、半分本当で、半分嘘。
病状は悪くなる一方で、もう打てる手も少なくなってきた。
深「そっか。…で、本当のところは?」
「本当だって、」
深「半分ぐらいだろ。他に思うところが有りそうだけど。」
顔を見てればわかる。
ふっかに目線をやれば、それだけ言った。
深「…俺にも言えないこと?」
しばらく黙っていれば、寂しさが混じったふっかの声がぽつりと落ちた。彼はこっちを見続けていると思うが、相変わらず彼の方は見れないで、布団の皺を目でなぞっていた。
いくつか大きな息を吐いた。互いに話さなくて、どこかのベッドの秒針が進む音が遠くに聞こえるくらい、部屋はしんとしていた。言いかけて口を開いては、言えなくて閉じるを繰り返した。
どんなに時間がかかっても、ふっかは待ってくれた。
だから言えたんだと思う。
「みんなに、…迷惑をかけたくなかったんだ。」
誰にも言えない、本音を。
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作者名:ハルタ | 作成日時:2021年7月2日 13時