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渡辺side
いつも通りに仕事が終わった。
今日は、家の中で一番早く帰ってきたらしい。
玄関のドアを引いたら鍵がかかっていて、がちゃんと大きな音がするのみだった。いつもなら照が中から開けてくれているのに、その彼すらまだ帰ってきていないようだったから。
鍵穴に鍵を差し込みながら、今日の彼の予定を思い出す。あ、検査結果が出るって言ったっけ。
朝、結果を聞きに行く彼に誰かが、付き添おうか?と問えば、一人で聞きたいから大丈夫だと、断っていたっけ。寝起きの頭だったから、ぼんやりとしかそのやり取りを聞いていなかった。
検査を受けたあの日、応急処置程度の薬は貰えたらしく、体調は前に比べてほんの少しだが良い方向に向かっていた。咳で苦しむ姿を見るのも、回数が減ったような気がする。
ただの風邪。それを少しばかり重たい方向に、こじらせてしまっただけ。
思っていたよりも結果はその程度で、良かったねと言い合えたら言いけれど。
手が止まっていたようで、ふっと我に返れば、涼を求めて家の中に体を滑り込ませる。日が長くなって、流れる風は温いから暑いに変わった。
季節は、夏になった。
リビングはカーテンが閉められて、朝とあまり変わったところは見受けられない。つまり、まだ誰も帰ってきていないということ。カラリとベランダの窓を開けば、温い風が部屋の中に入ってくる。
足取りは無意識にソファーに体を沈めていた。
疲れた体は柔らかい誘惑から立てなくて、そのまま誰かの帰りを待つことにする。
しばらくすれば、ガチャリとドアの開いた音がした。でもそれは、玄関の重たさを持ったドアの音ではなく、各部屋につけられたドアの音だった。
「え?」
体がリビングの入口にすっ飛べば、俺を見るなり、おかえり、だなんて照が廊下にいた。
彼は、ふっかの部屋から出てきた。
今まで避けてきた、ふっかの部屋から。
「…入れたの、」
照「…うん」
外から帰ってきたままであろう格好で、彼は俯く。
「ねぇ、何それ、」
彼の手に握られた真っ白な大きな封筒だけ、二人の間で浮いていた。
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作者名:ハルタ | 作成日時:2021年7月2日 13時