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阿部side

深「ねぇ、照、泣くなって〜」

今日も仕事終わりにふっかの元に立ち寄れば、カーテンの向こうから茶化すような、でも、困ったをほんの少し混ぜた声が小さくした。

彼の相棒は、前より一段と泣き虫になった。

もう少しそうなんだよね、と、話をしたらしい。照に、鉢植えを贈った時に。

贈った意味は話さなかったらしい。

俺に意味を教えてくれたあの日、意味を知りたいと言われたら阿部ちゃんから伝えてくれないか、と頼まれていた。

ふっかとの間に結ばれた秘密は、とても重たくて、なんならその役目から逃げ出したくて、あの日聞かなきゃ良かったと後悔した。でも逆に、俺になら伝えていいと選んでくれたのは嬉しかった。

複雑な心境で、あの日から過ごしている。

深「お、阿部ちゃん。いい所に、」

カーテンを捲れば困った顔のふっかが、縋ってきた。

深「照、泣き止まないのよ。どうしよう。」

「ちょっと外の空気吸ってくる?一緒に行くよ。」

前はふっかが連れ出せた。
今ではその役目は俺になった。

今日は上体が上げられているだけ、調子がいいんだ。

もう、そこの段階まで来ていた。



「泣いたらいいよ、たくさん。」

自由に出入りできる、外のフリースペースに来た。

病院着をきた人から、同じような私服の見舞い客。誰かに電話する声。青い空が広がって、程よく風が吹いて、息が詰まる院内とは真逆の空間が広がる。

二人でベンチに腰をかけた。隣で照はまだスンスンと涙が止まらないようだ。

最近よくここに来るようになったな、といつもと変わらない景色を見て思う。

今回みたいに泣いている彼を連れてとか、険しい顔の翔太を連れてとか、自分の痛む胸と荒れる感情のリセットに、とか。

照「…わりぃ、落ち着いた。」

目を真っ赤に染めた照がこちらを見る。

「…ふっかもさ、もう少しって、言わなきゃ良かったのにね。全然、もう少しじゃないかもしれないじゃん。」

思っていた本心は、ポロリとこぼれる。

何度も言っているが、彼は優しい。

いきなり居なくなると困らせると思ったのか、俺らに準備をさせてくれているのか、何度ももうすぐそうだと、言う。

照「…準備しろってことなのかな、この前の鉢植えといい、さ、」



それは、

俺がいなくなる未来から目を背けないで欲しい

ということなのだろうか。



その未来は、変えられない

ということなのだろうか。

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作者名:ハルタ | 作成日時:2021年7月2日 13時

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