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佐久間side

玄関が開いた音がしたかと思えば、次に寝室あたりのドアがドンと、閉じられる音がした。

ただいまの声もリビングに顔を見せることもなく、なんなら玄関のドアを中から締めることもなく、靴は脱ぎっぱなし、カバンは玄関に投げ捨てられたままという次第だった。

「…あべちゃーん、」

靴を揃えて、鞄を持って寝室のドアをノックしようとした時、中から泣いている声が聞こえた。しくしくとかじゃなくて、声を上げてわんわんと泣いていた。

阿部ちゃんのこんな姿は初めて見た。切り込むのは得意なのに、部屋に入るのを躊躇う位だった。



「…入るね、」

しばらくドアの前にいたけれど泣き声は変わらなくて、こちらの胸も痛んできたので、ペットボトルの水を片手に部屋のドアを開いた。阿部ちゃんのカバンは、リビングのテーブルに置いてきた。

ドアを少し開けば、暗い部屋の中ベッドの上から声がした。小さく間接照明を付けさせてもらう。

阿部ちゃんは、上着も脱がずに、ベッドの上で蹲るようにして泣いていた。

「…どうしたの?」

ベッドが二人の重さを受けて沈んで、ゆっくり彼の背中を摩る。ドア越しでは分からなかったが、嫌だ嫌だと、泣き声の間にそう挟まっていた。

「教えて欲しいなぁ…」

先程よりは収まったかと、そう言ってみるがスンスンと鼻をすする音と、俺の声が虚しく響くのみだった。

「ねぇ、上着脱がない?」

そう言えば、ゆっくりと体は上がって上着がベッドの下に落とされた。でも体は、また同じ体制を取ろうとする。

「泣きすぎて、頭痛くならない?お水あるよ。」

と、ペットボトルの蓋を緩めて渡せば、受け取って何口か含んだ後、返された。ペットボトルは、蓋を閉めたあとベッドに投げた。

ゆっくりそのまま抱きしめた。力の入っていない上体はぐったりと委ねられて、頭を埋めた肩のあたりが、暖かくじわりと濡れていくのがわかる。

「なにがあったの?」

背中のあたりをトントンと軽く叩いて落ち着かせる。それでもまだ、声を殺して涙は出ていた。



阿「…かがね、」

ふっかがね、

阿「もうすぐな…って」

もうすぐなんだって

小さな小さなその声は、耳のすぐ横で消えたのに、言葉はずっと頭の中をぐるぐるして、胸をぎゅっと苦しくさせる。

俺は、それへの返し方が分からなかった。

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作者名:ハルタ | 作成日時:2021年7月2日 13時

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