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深「…ーべちゃん、」
少し掠れたふっかの声が小さく店先に響いた。見たらマスクをしているし、足元はふわふわしている。
「え、ふっか!?座って!」
小さな丸椅子を裏から持ってきて、彼を座らせる。悪いね、と言って彼は腰をかけた。
痩せたなと思う。
病院着から覗く手足も、マスクが無きゃ見える顔も。痩せたというのが、わかってしまうくらい、こけた。
「なんでそんなフラフラで来たの?寝てないと、」
治して欲しいんだから、という所までは言えなかったけれど。
深「検査でたくさん血抜かれて、腹いせに」
容器7個分も抜かれた。7個だよと、ふっかは左袖を捲った。白い小さな四角が、腕の真ん中に貼られていた。
深「ねぇ、あべちゃん、」
今日のふっかの言葉は、全体的にふわふわして丸く聞こえている。可愛さと裏腹に、言葉の本心の部分を、そのふわふわが隠すように覆っている。
深「鉢植えを贈りたいの、ひかるに」
そんな彼の言葉を、俺はレジ台に頬杖を付きながら聞いていた。ひかるに、の部分はやっぱり舌っ足らずの平仮名に聞こえた。
「鉢植え?」
深「うん、育てるのが難しいやつ」
「育てるのが難しいやつ?難しくていいの?」
深「難しくていいの。何かある?」
花を見ていたふっかがこちらを向いて、ゆらりと視線が交わった。
育てるのが簡単な、育てやすいというリクエストは貰うことが多くて、いくつか答えを知っているが、逆というのは初めてだった。
大きさも値段も問わない、ただ育てるのが難しいやつ、というそこだけふっかは譲らなかった。
「ちょっと時間貰っていい?探してみるから。」
深「悪いね、」
頼むわと言うと、彼はゆっくりと立ち上がる。そして、また来るねと、店をあとにした。
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作者名:ハルタ | 作成日時:2021年7月2日 13時