鉢植え 2 (ページ11)

今日:5 hit、昨日:22 hit、合計:64,944 hit

10 ページ11

外は、しとしとと雨が降っていた。

ガラスの窓に幾つもの透明な雫をつけていく。静かな院内は、更に静かに暗さを増して、廊下の白が目に痛かった。

「ふっか、」

行きなれた彼の病室に向かえば、カーテンの向こうに先客がいた。

渡「…阿部？」

スーツを着こなす翔太は、ベッドサイドの椅子に腰をかけてふっかと話をしていた。付けていた青い指輪が、白い彼の手に映えていた。

「翔太、久しぶり！」

深「おお、阿部ちゃん、今日もお花ありがとうね。今、花屋やってんのよ。」

渡「花屋！？意外だわ…。てっきり、教師にでもなったのかと。」

でも、阿部に似合うな。と、彼は続けた。

深「愛しの舘さんは、国語教師だもんね。」

「え、国語教師！？舘さんが？」

ふっかに茶化された彼はうるせーと、ふっかを小突く。その顔は、ほんのりと赤に染まって。

「愛しのってことは、…ついに結ばれた？」

そう言えば、指輪をつけた手を少し掲げて見せてくれた。

深「そういう阿部ちゃんも、佐久間と一緒に住んでるし、」

渡「え、」

ふっかに向けられていた翔太の頭が、ぎゅいんとこちらを向く。

「あ、」

そんな俺らを、にこにこと楽しそうにふっかは眺めているのであった。

佐「ただいまー、」

と元気で、でも少し疲れたような、それでも元気さが勝つそんな声が玄関に響いた。

「おかえり」

おかえりとただいまを言い合えることが、どんなに幸せなことなのか、最近そんなことをよく考えるようになった。

いつかは言えなくなる。
言えるうちは、ちゃんと言葉にしないと。

ありがとうとごめんねも、…好きだということも、きちんと言葉にして伝えたい。

佐「さっきね、涼太に会ったんだ！」

リビングの入口から玄関を覗いていた。長くない廊下を小走りでやってくると、むぎゅりと彼はお腹にくっつく。いつかそれは、エネルギー補給だと言っていたっけ。

佐「青の指輪が綺麗でね、」

青い指輪、で昼間の翔太を思い出した。

「俺は翔太に会った。今日、ふっかの所で。」

えー偶然だね、と嬉しそうに彼は見上げる。

「翔太も、青い指輪してたよ。」

佐「え、ってことは…、」

そういうこと？と、嬉しそうに笑う。

「…俺らも、考えようか。」

佐「え？」

フリーズしたまま、彼はお腹から離れない。頭の上に何個もハテナが見える彼の顔は、滑稽で可愛くて愛しかった。