32正念場 ページ32
だが、予想していた答えだ。
心を落ち着かせ乍、言葉を返す。
「そいつの部下、もしくは束ねていた傘下組織を叩けば更に証拠は出てくるかと。其れも大方見当がついています。」
そう云い切ると首領は「…成程。」と一言だけ云った。
しかし、これだけで納得を得られる訳も無く、質疑はまだ続く。
「だが今、彼女を生かしたとして、また組織の人を殺めるかもしれないよ。例えば、他の幹部や私。中也君かもしれない。」
そう。その可能性は否めない。
だが、敢えて真っ向から否定する。
「その心配は御座いません。何故なら、彼女は命じないと動きません。そして、」
一度、言葉を此処で区切る。
「…そして、俺が命じました。組織に仇なす幹部を闇に葬れ、と。」
そうゆっくり静かに告げた。
Aが直ぐ様、「はぁ!?」と素っ頓狂な声を上げる。
俺の言葉に、首領と姐さんも目を丸くしていた。
そして、Aは俺に掴み掛かった。
「貴方の記憶にはワタシは居ないのに、何を云ってるの?!」
彼女の発言に、口許が弧を描く。
「おいおい、何で俺の記憶から手前だけが、すっぽり抜け落ちている事を知ってンだよ。可笑しくねェか?何も知らないんだろ俺の事。」
会いに行った時、何時もそう云ってたじゃねェか。
俺の言葉に、目を見開くA。
彼女を手をふりほどき、首領を再び見つめた。
「俺が命じ、彼女は組織のためを思い、幹部を殺めたのです。俺の記憶を消したのは任務遂行に必要だった為。彼女を罰すると云うのなら、俺にも罰を与えてください。」
そう云い切って頭を下げた。
その場に長い長い沈黙が訪れた。
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作者名:雪渓 | 作成日時:2018年9月16日 19時