31嘆願 ページ31
「無礼な入室申し訳ありません。」
俺は帽子を取り、そう云ってからドアをゆっくりと閉める。
そして、彼女の隣に立った。
「おや、中也君。君には数日前に遠出の任務を任せた筈なのだけど、どうしたんだい?」
首領は首を傾げる。
「ご安心ください。其れは既に終わらせました。」
そう云うと、瞬きを数回してから微笑んだ。
「流石中也君だ。君は実に組織に尽力してくれる。この女も捕らえたのも君だったね。」
そうだ、亡き幹部の無念を晴らすこの時間に、中也君も参加するかね。
と、首領が手を打って提案してきた。
此処からが賭けだ。
「いえ、今日はAの助命嘆願の目的で参上致しました。」
そう真っ直ぐ視線を向け、伝えた。
紅葉の姐さんが袖で口許を隠しながら「おや、まぁ。」と小さく呟く。
そして、背後に控えてさせていた夜叉を消した。
しかし、首領は表情を一切合切変えない。
そして、質問を此方に投げた。
「何故、助けたい?彼女は組織の一幹部を殺めたのだよ?」
首領の云う事は尤もだ。
「幹部殺害は紛れもなく彼女の仕業でしょう。ですが、Aがそうしたのは理由が有るのです。」
そう答えてから首領の側に寄り、手にしていた書類の束を渡し、またAの隣に戻る。
「その書類は、今回殺害された幹部についての書類です。彼は幹部でありながら、首領の首を掻こうと裏で動いていた形跡が有ります。」
首領は俺の声に耳を傾け乍、書類に目を通している。
「…ふむ。だとしても、此れだけでは彼女を生かしておく理由には出来ないね。」
と、返答を受けた。
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作者名:雪渓 | 作成日時:2018年9月16日 19時