12気だるげな彼女(其のニ) ページ12
数回鳴ってから「はーい。」と気だるげな声が聞こえた。
「手前ェ、何処居やがる。」
怒りを抑えようと心掛けるが無理だ。
「こんな善い日に缶詰めなんて詰まらない。同じフロアの何処かにいます。」
其れだけ云って切られた。
舌打ちを一つして、立ち止まる。
電話の先から聞こえたのは、彼女の声、風の音、微かに電車の音。
このフロアは窓は有るものの、開けられる窓は少ない。
あったとしても、その部屋は大体事務所として使われているから、奴がのんびり出来るところは無い筈。
加えて、電車が見える所となるとかなり絞られる。
「…非常階段か。」
そう結論付け、非常階段に向かうと、其処のドアは常に鍵が掛かっている筈なのに開いていた。
ドアを開くと、手すりに凭れながら夕焼けを仰ぎ見るAがいた。
大当たり。
「サボってンじゃねぇよ新入りが。」
ずかずかと歩き、その隣に並ぶ。
煙草を取り出し、火を付けた。
「思いの外、早いお出ましで…。所で、怒らないのです?」
空を眺めながらもそう訊いてくるA。
どうやら怒られる前提でサボっていたらしい。
だが、コイツの様な人種は、云っても聞きやしねぇのは知ってる。
「云っても聞かねぇだろ。サボるなら他で挽回しやがれ。しなかったら殴る。」
煙を一つ吐く。
「…中也さんって、変人って云われません?」
Aは顔を此方に向けながらそう云う。
「あァ?叱られてェなら叱るぞ。今なら拳つきでな。」
彼女の前に拳を近付ける。
「わぁ、それはご遠慮したい。所で用件は。」
出来れば、心踊るもので。と付け加えるA。
「…手前が心踊る事ってあンのかよ。」
「否、あまり。」
即答だ。
吸殻を落としながら、溜め息と共に煙を吐く。
「…だろうな。用件は任務だ、そろそろ鈍ってきただろ。」
任務、という言葉にAの声色にやる気が少しだけ帯びる。
「やっと体が動かせる。それに、書類よりはまだ楽しめる。如何な内容で?」
彼女は体を伸ばし乍、俺に訊く。
その後、任務を説明した。
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作者名:雪渓 | 作成日時:2018年9月16日 19時