4月1日 ページ2
「パラドックスって知ってる?」
高校の入学式の帰り道、葵はつぶらな瞳をこちらへ向けながら僕にこう聞いてきた。
「聡明院高校首席から二番目入学者を舐めるなよ。ジレンマと同じ意味だよね?」
「首席入学は私だもん。舐めてもいいよね?」
「…はいはい」
満開の桜並木の下をたわいない話をしながら通り抜ける。
僕は、難関進学校である聡明院高校の入学式を終えたところだった。
同じく聡明院高校に合格したクラスメイト、葵は僕の生まれた時からの幼なじみ。
というか幼稚園、小学校、中学と彼女とずっと同じクラスだった。ここまでくるともう偶然とは言えないのかもと思い始めていた。
「葵、理系だっけ?何でパラドックスなんかに興味あるの?」
「うーん…だって、凄く美しいから」
パラドックスが美しい。
そう言うのは彼女くらいだ。
葵は昔から、不思議なものの考え方をする子だった。
「grandfather paradoxっていう、時間軸のパラドックスの話は知ってる?」
「ああ。過去に戻って自分の祖母に出会う前の祖父の運命を変えると自分自体の存在が無くなって、タイムトラベル自体が不可能っていうやつ?」
「うん。その話、どう思う?」
これ以上ないくらい真剣な瞳だった。
僕は思わず固唾を呑み、この矛盾についてかなり真面目に考え始める。自分の思考回路を存分に駆使して。
「現在は過去を改変しようとする未来からの干渉を織り込んだ上で成り立っていると考えたら、矛盾は起きないんじゃないかな?」
素晴らしい。
自分に拍手喝采だ。
これほど完璧な答えは無いのではないか。
「…そうだね。」
だけど彼女は、いつもの明日を見る瞳で、ぼんやりとした表情で黙り込んだ。
なんだ。首席入学の葵様には他の完璧な答えがあったのだろうか。
「じゃあさ、そういう君はど…「また、明日ね」
程よい長さのポニーテールが愉快に跳ねていた。
彼女は、僕の質問を遮るようにして桜並木の向こう側へと走り去っていった。
僕は、入学早々控えていた古典のテストに備え、紺色の通学鞄から単語帳を取り出した。
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やっさん(プロフ) - 新作おめでとうございます。いきなり、藪から棒に!?の衝撃のスタート。どうやら、回想録設定の物語のようですね。続きが、楽しみです♪。 (2020年9月5日 11時) (レス) id: fd24bdc7a6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Yuki | 作成日時:2020年9月5日 0時