悪夢 ページ41
隣には、寝巻き姿で私にしがみつく愛しい少女。
…夢か。
「……っ！…」
急にもの凄い吐き気に襲われ、備え付けの洗面台へと駆け込んだ。
「ちょっと…大丈夫？！」
慌てて千尋は私の背中を強くさする。
…気持ちが悪い
胸がムカムカして、どうも体調が優れなかった。
「…ハク…あなた、何度も何度も呼んでた」
「マヤ…って…」
彼女は、不安げに私を見た。
……私は最悪だな。
妻の前で初恋の少女の名を呼ぶなど。しかも夢にまで見て。
「…悪阻に苦しんでいたそなたの気持ちが今は痛いほど分かるよ…」
「…そんなにキツイなら何とかしないと…しかも悪夢にまでみるって…よっぽどだよ」
「…分かってる。マヤの命日は来月15日だ。その時…サレナ王国を訪ねるべきなのだろうな…」
ハクは、側の椅子に重く腰かけると頭を抱えた。
……私の頭の中には、ハクの儚げな呼び掛けが離れない。…私が知らない頃の話に首を突っ込むことは出来ないけれど…
「現世で、琥珀川のあった場所が今どうなっているのか全く分からないから…鎮魂も出来ない」
「…あのね…ハク」
ああ。どうしたら良いのか。
これを言えばハクが動揺することくらい分かってる。
「湯屋に…人間の女の子が迷い込んだらしいの」
ハクの表情が分かりやすく変わった。
「…その子…千夏の娘…だって」
彼は、ゆっくりと顔をあげると、何とも言えない表情で私を見つめた。
そのまま何となく目を逸せないでいると、彼は目線をほんの少し下げると軽く吐息をついた。
…やがて、おいで。と座っているソファの隣を叩く。
そこに腰かけると、ハクは優しく私を抱き寄せた。
「どうしてそんな不安そうな顔をするのだ」
「え…」
「私が湯屋に飛んで行くとでも？」
「思うよ。だって…」
「…なんとなくそんな予感がしていた。人間の気配は特に感じやすいから」
…ハクってそれだけ色々なことが分かってどうして平常心で生活していられるんだろう。
「湯婆婆様に様子は聞いておく」
「…会いたくないの？」
そう聞くと、彼は暫く黙り込んだ。
そして、言葉を選ぶようにこう呟いた。
「あの頃の思いが溢れかえってしまうだろうな。
…千夏は思い入れのある少女だから…その娘なら面影があるだろうし。
…だけど今はかえって会わない方がいいのだよ。
千夏も…それこそマヤも…ずっと昔に過ぎ去ったことだから。私は今という時間をそなたと生きることを選んだ。どう？そなたの不安要素は払拭出来たか？」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 83人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
やっさん(プロフ) - なるほど。結婚してから、王位を継ぐの理由のひとつに、一人では、王の仕事が多すぎて、手に負えない事情も、あったのですね。二人で協力して、やっとなんとかなる激務、王様も楽ではない汗汗。 (2020年6月26日 20時) (
レス) id: fd24bdc7a6 (このIDを非表示/違反報告)
やっさん(プロフ) - ゆきさん» ちょっとし、思いっきりですが、リクエストよいでしょうか？龍神屋敷の、設定で、千尋が、家臣の扱い方が、わからないために起こした、お笑い騒動を書いてみてはどうでしょうか。どんな、騒動が、あったか興味があります。 (2020年6月8日 20時) (レス) id: fd24bdc7a6 (このIDを非表示/違反報告)
やっさん(プロフ) - 千尋とハク様が、龍神お化け屋敷に、帰るのですね。ルイと沙羅姫様の問題にも決着をつけるべきですし、まだまだ、前途多難の波瀾万丈ですね汗汗。余談、千尋さん、女官の方々をうまくつかえるのか??千尋が、屋敷に珍騒動を巻き起こすか(^^;;。 (2020年6月3日 21時) (レス) id: fd24bdc7a6 (このIDを非表示/違反報告)
やっさん(プロフ) - 千尋とハクの子供が、危ない汗。確かに、千尋とハクの子供には呪いが... 。呪いをとかないまま子供を作るのは、無謀なのか!?!? (2020年5月23日 22時) (レス) id: fd24bdc7a6 (このIDを非表示/違反報告)
printemps(プランタン)(プロフ) - 早う、暖かくして上げて！！！ (2020年5月22日 17時) (レス) id: a86d5a1323 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：Yuki | 作成日時：2020年2月10日 1時
