千と千尋の神隠しより「千尋とハクは許婚！？」part11

満月の夜 ページ30

地下冷凍庫閉じ込め事件は、ハクとお婆さま、銭婆様をはじめとする湯屋の中でも統括を担当する者たちのみが知ることとなり、突然失踪した新入り女中、タミについてはまあ上手いこと説明されることになり、千尋とハクの子についても、口外されることは無かった。

「…では…また何かあれば」

「まあ、こっちのことはたまに気にかけてくれればいいよ」

そんな言葉を交わすハクとお婆様。

「千尋。行くよ」

欄干に寄り掛かって、下を通る電車を見つめていた私は、ハクに呼び掛けられ顔を上げた。
こんな真夜中まで電車って通っているんだ。
もう皆寝静まり、昼間の賑やかさとは似ても似つかない雰囲気。月明かりが幻想的に真っ赤な湯屋の外観を淡く照らしていた。ネオン街の灯りも無いので、一つだけ付いた外灯の灯りを頼りに橋を渡る。

「ハクって夜目が効くんだっけ？」

「うん、まあね」

「いいね、便利で」

「そうか？龍だから当たり前だよ」

特に意味の無い会話。
これからその龍の背中に乗ってまた龍霊界に帰らなければならないのだけど。

「なんか眠い」

「寝てもいいよ？落ちなければ」

「そこは上手い具合に飛んでよ」

草原までくると、ハクは龍に化す。
久しぶりに見たこの姿。
出来る限り屈んでもらうと、よっ…と背中に跨る。その時無意識に自分がお腹を庇ったのを感じて、なんとも虚しい気分になった。

＊＊

龍神屋敷に着く頃には、私は宣言通り本当に眠ってしまったので、龍体を解いたハクにいつのまにかおぶられていたことにも気がつかなかった。

「…殿下…おかえりなさいませ」

「…昨夜連絡したのだが…そなたにも伝わっておるか？春日」

「はい…屋敷中の者には伝えております。それに、陛下にも先程お話は済みました」

「そうか」

深い眠りについてしまった千尋を起こさないように屋敷の中まで運ぶと、彼女の部屋まで石階段を登る。
湯屋からこの遠距離を移動してきたため、階段に足を踏み入れるたびに息が切れる。
やがて、彼女の部屋まで辿り着くとそっとベッドに寝かせる。

……溜まりに溜まった仕事を片付けなければ。
今日は確か、貿易の公務があったはず。
それまでにあと何時間かあるな…

真隣の自室に入ると、横にはならずに机へと向かう。書きかけの書類にザッと目を通すと、目を擦りながら筆を走らせる。
…ここ最近で色々と起きすぎて、まず何から片付けるべきかも分からない。
…でも極力千尋を1人にはしたくない。

立場と蟠り→←下ネタ連発

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す