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我妻先輩は ページ11

「Aちゃんさあ、このバンド知ってる?」
「あ!知ってます!最近ハマってるんです!」

「最近このバンドが来てると思うんだよね。俺のマイブーム」
「へえ……あ、名前は聞いたことあります!」
「ほんとに!じゃあほら、聴いてみてよ」

「……すごい。いいですね、このバンド」
「でしょ?」
「歌詞もいいんですけど、この独特なリズム感がいいですよね」
「うんうんうん!いやあーすごいね!ここまで話が合う子は初めてだよ!」

とても嬉しそうに笑う先輩を見て、また胸がトクンと跳ねる。
「わ、私もです…!」
精いっぱい笑いかけると、先輩はなぜか目を見開いて、嬉しそうに微笑んだ。

楽しい。
こんなに話してて楽しい男の人、初めてだ。

「今日はありがとうございました」
「ううん、こちらこそ!またおいでよ」
「はい!」
まだ学校に残る先輩と校門の前で別れた後も、私の心は弾んでいた。
また会って話したいなあ。
早く水曜日にならないかな。
なんて、別れたばかりなのにそんな考えが浮かぶことに少し驚きながらも、私は上機嫌で家に帰った。



─────────────────────



「Aちゃんさ、楽器とか…しないの?」
「え?」
翌週、水曜日。
先輩とまたお話をしていると、先輩の口からこんな質問がこぼれた。
「ほら、ギターとか、ベースとか…ピアノとかも。管楽器とかでも」
楽器……
「……しない、ですね……」
否定の言葉を発した私に、先輩が再び問いかける。
「…どうかした?」
「え?」
「なんか元気なくなったな…って。あと、ちょっと悲しい音がしたから」
……先輩には、お見通しなのかもしれない。
「……あんまり、楽器にはいい思い出がなくて。大丈夫です。なんかごめんなさい…」
「ううん、全然!こっちこそ嫌なこと聞いてごめんね」
我妻先輩は、優しかった。

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作者名:merry | 作成日時:2020年11月29日 21時

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