臨床犯罪学者火村英生の推理ー彼女の心15ー

ロジカルデスゲーム 番外編 桜宴の誘い ページ7

何の時だったか。
あぁ。そうだ。

Aのストーカー事件の後、
アリスの家で。

”もう少ししたら、時絵さん誘って
花見に行こうか。”

と。
アリスが言い出したのだった。
火村の頭の中で、ビデオを再生するように。
その時のことが思い出される。

.

「もう少ししたら、時絵さん誘って
花見に行こうか。」

見ていた映画で、ちらっと映った桜の道。

「あんなの、桜を見に行ってるのか
人を見に行くのかわからないだろう。」

有栖の提案を、ばっさりと切り捨てる火村。

なんで、そんな非情なことを言うのか。
信じられないといった様子で、
有栖は目を見開いた。

「春言うたら桜やろ！
桜言うたら花見やんか！」

映画の内容そっちのけで、火村に食ってかかる有栖。

「別に、花見をしなければならないというわけではないだろう。
人が多いところは面倒だ。」

いつも通りの二人のやり取りを、
にこにことAは見守っていた。

「Aちゃんも…めんどくさい？」

狡いな。
Aに話を振るアリスに顔をゆがませ
視線をテレビの画面に戻す。

たしかに。
ひらひらと舞う桜吹雪は
どこか幻想的で。

『楽しそうですね。
あ、お弁当つくります！』

「まじか！
Aちゃんのお弁当楽しみやな〜。
火村は、行かんのやったら
時絵さんと3人で行こうか〜。」

『有栖川さん。』

「ん？」

『せんせい、行かないなんて言ってないって。』

Aが火村の顔を見て微笑む。
Aに促されるように、有栖もこちらを見た。

「ん？行かんのやろ？」

「面倒だと言っただけだ。」

『私、せんせいともお花見したいです。
京都の桜は…綺麗ですし。』

ね？

本当は行きたいと思い始めていることを見抜いたように
笑顔を見せるAに、

「仕方ないな。」

そう言って火村は、口角をあげた。

.

思い出して、思わず浮かぶ笑み。

そうだ。
花見に行くと約束をしたのだから。

帰ってやらないとな。
ため息のようにこぼれる笑みに
火村は口元を抑えると、タクシーのシートに深く背を預けた。

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