春の君【太宰治】 ページ1
「太宰さん、そんなところで寝ないでくださいよ。私も寝たくなるじゃないですか」
春の陽気でポカポカとしている我が武装探偵社では、先輩の太宰さんが医務室でウトウトしていた。
「だったらAちゃんも私の腕の中で寝れば良いじゃないか」
「やです」
「つれないなぁ〜」
面白くなさそうな顔をして太宰さんは起き上がる。
やっと仕事をしてくれるのかと思っていたが、その期待はどうやら間違いだったようで、
「……あの、太宰さん」
「何だい?」
「どうしたんですか」
正面から抱き付かれた。
太宰さんの方が勿論身長が高いので、私の顔は太宰さんの胸板にくっついている。
太宰さんの匂いがする。
あくまでもイケメンにこんなことされてドキドキしない女子なんていないだろう。
私だってドキドキしてないわけではない。
「あたたかい〜。Aちゃんのこういうところ、私好きだよ」
「…は」
顔をあげると、太宰さんはどうだと言わんばかりの顔で私を見下ろしていた。
でもきっと、
「…私以外の女性にも言っているんでしょう?」
そうだ。
私だけに、なんてことはない。だって太宰さんだもん。
返事を聞くのが怖くて、太宰さんの腕のなかから抜け出そうとしたけど、無理だった。
すると太宰さんは驚いたような顔をした。
「何言っているんだい?私はAちゃんに出逢った時から君一筋だけれど?」
「………………
…………え」
今度は私が驚いた。
言葉の意味を理解するのに十数秒かかった。
「だってそうでなきゃ、いくら私だってこんなことはしないよ?」
信じてくれるかい?
耳元でそう囁かれた言葉に、私は頷く他無かった。
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作者名:龍胆ツクシ | 作成日時:2017年4月13日 16時