【文アル】中野重治、光に触れる (ページ7)

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光はここにあるページ7

＿あせってはいけない。
ただ、牛のように、図々しく進んで行くのが大事である。

こんな状況なのに、夏目先生の言葉が不意に頭をよぎった。

中野『…大丈夫だよ、司書さん。もう涙は…こんな涙は、君の前では流さない。』

ｽｯ…と優しく涙を拭ってくれたフユヒの手を取り、その手を包み込むように両手で握りしめる

フユヒ『中野先生…？』

中野『……小さい。』

フユヒ『え？』

中野『こんな小さな手で…君は、僕達を救ってきてくれたんだね。
こんな小さな体で、君は…僕達の“光”となってくれるんだね。』

中野の顔にはあの時のような、感情が読めない薄い笑みではない。

まるで……

中野『光は…ここにあったんだ。』

“光を見つけ、探した喜びを噛み締めているかのように”。

＿その顔は穏やかなものだった。

フユヒ『光…？今はお昼ですけれど…
確かに、カーテンで遮っていてもお日様の光は眩しいですよね。
でも…私は、お日様の光はぽかぽかで温かくて、包み込んでくれる感じが大好きです！』

その言葉は計算なのか天然なのか。

フユヒはｺﾃﾝｯと首を傾げつつも、握られている両手と中野の顔を交互に見る。

中野『…うん、僕も…好きだよ。僕を包み込んでくれる温かい“光”が。』

そっと中野は彼女の手を握っていた両手を離す。
…まだ微かにフユヒの小さくて白い手の感触とぬくもりが残っていた。

フユヒ『…あ、そういえばお昼でしたね。
中野先生、この作業が終わった後に、館長さんと一緒にお昼ご飯を食べませんか？』

中野『僕が行っても邪魔にならないかい？』

フユヒ『はい！大丈夫ですよ。私が今から館長さんに伝えてきますので!!』

フユヒは中野が食事の誘いを承諾してくれた事に興奮しているのか、中野の至近距離まで詰め寄る。

中野『…！

……ふふ、じゃあ、司書さんはこの僅かな本の仕入れのお仕事を僕に押し付けるのかな？』

フユヒ『え！？』

意地悪く笑って問いかけてみれば、フユヒはあわあわと慌てだす。

フユヒ『そ、そんな滅相もありません！元はと言えば私が中野先生にお手伝いを…!!』

取り乱したように言葉を続けるフユヒの唇に、中野の制止の人差し指が押さえられる

中野『冗談だよ、司書さん。…あとは僕がやっておくから、司書さんは館長さんの元に行ってきてよ。
これぐらいならすぐに終わるからさ。』

少し頬を染めるフユヒに中野はふわりと微笑んでみせた。