【忍たま】日々平凡【短編】 (ページ49)

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大晦日-黒木庄左ヱ門ページ49

「おはよう。」

「おはようございま………え、もうお昼ですか！？」

驚いてバッと起き上がる。しかし周囲はまだ暗いままだった。ザワザワと騒がしい人の声が数枚壁を隔てた先から聞こえてくる。

「いや、まだだよ。まだ大晦日。」

と、先輩はくすりと笑って私の隣に腰を降ろした。嫌だな。いや、嫌じゃないけど。

どうせ顔を合わせるならこんな寝惚け姿じゃなくって、もっと可愛い格好をしてる時が良かったな。

「何をしていたの。」

「今年は雪が積もっていて帰郷できないので、せめて新年の挨拶だけでも手紙で済ませようと思って。」

「新年の挨拶って言っても、新年まであと半刻じゃないか。」

「………ずっと出し忘れていたので……」

「ははは、実に君らしいよ。」

先輩は私の前で良く笑う。それは恋仲だからなのか、単に私が間抜けだからなのか良く分からないけれど。

じーっ、細めたそれで捉えた。何だろうかと首をかしげると、ふんわりと微笑んだ。

首もとに手を伸ばして、顎を伝わせる。優しく甲が頬を撫でた。

「A」

「……え」

これは、噂に聞く、あの、口吸いというヤツではないでしょうか。

意識した途端に目の前の匂いが増して感ぜられて、思わずギュッと目を瞑った。

……けど、返ってきたのは思ったよりもずっと平然とした声で、

「頬に炭がついていたよ。」

か、勘違いだった……。

一挙に羞恥心が襲ってボボボッと沸騰しそうな位に顔が熱くなる。

先輩は少し顎に手を当てて考えた後に、欲張りだなぁ、と笑った。それからまた顔を近付けて、いとも簡単に唇を寄せた。

「満足した？」

「………。」

「ふふっ」

「笑わないでください。」

「ごめんごめん。新年一番に見るのは君が良いなぁと思って来たら、意外な収穫があったものだから。」

「もう……」

薄着でうたた寝していたから寒いだろうと、着ていた半纏を私の肩に掛けた。さっきの口吸いなんてまるで利いていないようだ。

数年しか変わらない癖に、こうも余裕そうなのが気に食わない。

「先輩はどうしてそんなに平気なんですか。」

「うーん……さっきちょっと味見したからかなぁ。」

「！？」

反射的に両手を口元に当てると、先輩は腹を抱えた。がらんどうの寂しい部屋が、快活な声で満たされた。ゴーンゴーン、と追うように新年の音が聞こえてきた。