【忍たま】日々平凡【短編】 (ページ44)

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「僕らはありふれた幸せなんて望むべきじゃない。」

「ほう」

「いつかお互いを切り捨てなきゃいけない時が来たって可笑しくはないだろうし、お互いの為に近付きすぎないのが必要だと思うんだ。」

言い聞かせる様にそう言った。心なしか、前に延びる影も何物かによって隔てられているような気がした。そうかしら、と私は思う。

少なくとも山田先生と奥さんを見ている限りは、二人を阻む壁なんて物は感じないけれど。

しかし上手く伝えられる自信は無かったので適当な相槌を返した。

少しの沈黙が伊作の声によってまた割かれた。

「……もし僕が仕事中に不運に遭って君の足を引っ張ってしまったらどうする。」

「不運って言っても、落とし穴とか蹴躓くとかそれくらいでしょ。」

「そんなのよりももっと大きな不運だよ。例えば、そうだな………致命傷を負うくらいの。」

「助けるよ。」

「重要な任務を放棄してまで？」

「うん、伊作をとる。」

すぐにふいっと目線を逸らすと、首の後ろに手をやった。

まったくAは、とか何とか呟いて冷静を演じているけど、私は知っている。それが君の照れた時の癖だってことくらいは。

一応は恋仲なんだし。

「伊作は私を選んでくれないの？」

「馬鹿、選ぶに決まってるじゃないか！……あ。」

「私だって伊作に生きろって押し付けたいよ。」

一瞬丸くして、また顔を背ける。もう一度同じ動作をした。分かりやすくて、可愛らしい。

思わず吹き出すと、彼はカァッと顔を赤らめて、それから私の手を取った。

「……これが今の僕に出来る精一杯の普通。」

「ふふふ」

優しい保健委員長だとは思えない、ぶっきらぼうな口調と不器用な左手。離れていた影は詰まって、折れた橋が二つを繋いだ。

照れ隠しの為か少し早足になった彼の背中を追った。

たとえ恋仲の定義に沿わないのだとしても、私はこの関係を愛しく意地らしく思うのだ。