【忍たま】日々平凡【短編】 (ページ43)

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高望み-善法寺伊作ページ43

町を歩いていた。保健委員会の後輩たちが揃って都合がつかないとかで、私が代わりに伊作のお手伝いをすることになった為だ。

ここ数年の内に頭一つ越えてしまった背丈。話しかける度、屈んで返してくれる。そんな誠実さは昔から変わっていない。

私と伊作は、確か四年生の冬が終わる頃に恋仲になって、学生にしては珍しく長続きしている。

でも、決して熱々だという訳でもなくて、勿論いがみ合ってもいないのだけど。

恋仲と謳いつつも、世の恋仲とは少しずれた私達ならではの独特で不思議な関係性にあった。逢瀬を重ねたことだって殆んど無いし。まぁ、それに特段の不満がある訳でもない。

しかし、第三者から見ればそれは一層奇妙に映ってしまうらしいのだ。

一般に、恋仲の前では必要以上に過保護になったり頬が緩んでしまったりするものだが、彼は全ての人に対して優しくて良く微笑み掛けているものだから、私の前に明確な変化が生じないのだ。

優しいのも誠実なのも、その気になれば簡単に欠点にしてしまえるのだな、と当の私は呑気に考えるのだった。

「じゃ、戻ろうか。」
「うん。」

お目当ての包帯を貰い暫く歩いていると、丁度同じ位の年代の男女を見つけた。

彼らの状況を表す言葉があるとすれば……バカップル？

まるで世界には自分達しか居ないかのように、陶酔しきったその姿。周囲は皆顔をひきつらせていた。

「凄いね……。」

そう呟くと、伊作も苦笑した。

.

彼は案外現実主義者である。あの男女が見えなくなった路地裏でふと呟いた。本当に素朴な疑問、といった感触だった。

「あの温度がいつまで持つかな。」

「伊作って結構毒舌だよね。」

「だってそうだろう。砂糖だって煮詰めすぎると黒く苦くなるように、何事も適温ってもんがあるのさ。」

「普通の恋仲はああなるんじゃなくて？」

「うーん……どうも僕らは普通じゃないらしいからね。よく分からないや。」

「確かに、それもそうか。」

「僕に普通になれって思う？」

「いや、そうは思わないけれど。」

ちょっと見てみたい気もするかな、そう付け加えると彼はふーん、と不思議そうに唇を付き出した。

乙女心が分からないってこういうことを言うんだろうか。本当、君の恋仲が私であることに感謝してほしいくらいだ、なんて。