【忍たま】日々平凡【短編】 (ページ5)

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あがり症-加藤団蔵ページ5

初めて君を見たのは入学手続きの日。

自分よりも何倍も大きな馬を乗り慣らす姿が、まるで御伽噺の王子さまみたいで心惹かれてしまった。

お陰で私は今日も君の目を真っ直ぐに見れない。

「よっ、A！」

「だ、だだだ団蔵君……こ、こんにちは」

自分でも情けなくなるくらいに挙動不審で、動揺しまくり。

団蔵君の友達も私の友達も、私の彼への思いを知っているのでそんな様子を見ては面白そうに笑う。当の本人が気付いていないのが不幸中の幸い。

………もっと堂々とできたらいいのになぁ。

.

団蔵は委員会の仕事に向かうため、算盤片手に廊下を歩いていた。

カチャリ、カチャリ

数珠の揺れる音が鳴る。

正しくその道具を使おうとすると中々気持ちよくその音を鳴らすことができないので、いつかは潮江委員長や田村先輩のように歯切れのよい音を響かせたいと夢見ている。

カチャリ、カチャリ……カチャ

ふと立ち止まる、花壇の近く

顔見知りのくの一が水やりをしていた。

声をかけようかと考えていた所に、同級生の学級委員長が現れた。

「団蔵、会計委員会？」

「うん。庄左ヱ門も委員会？」

「ううん、喜三太のナメクジさんを探してるの。」

「そっか」

いつもより大人しい返事をする団蔵を不思議に思って、彼の視線の先を見る。

庄左ヱ門は何かを察し、優しく微笑んで呟いた。

「彼女、よく花壇の水やりしてるんだよ。」

「へー」

「誰かに頼まれた訳でもないのに真面目にね。」

「Aが言ってたの？」

「うん、前に聞いたらそう言ってたよ。皆が気持ちよく過ごせるから嬉しいんだって。」

「ふーん……」

心なしか不満げな団蔵の顔を、庄左ヱ門は心配そうに覗き込む。

「団蔵……？」

そっと名前を呼ぶと、困ったように眉を下げて返した。

「Aは俺と目を合わせてくれないからさ、そうやって話せる庄左ヱ門が羨ましくって。」

「おや……」

「俺嫌われてるのかな……」

「そんなことはないと思うよ。」

団蔵、いつまで道草食ってるんだ！！

委員長の鬼のような怒号が聞こえてきて、彼は焦って走り出した。

そんな後ろ姿を見送りつつ庄左ヱ門は思う。

(団蔵も何だかんだでAのこと気にかけてるんだなぁ……)

君と目が合うまであと三年。