【忍たま】日々平凡【短編】 (ページ21)

今日:9 hit、昨日:3 hit、合計:50,761 hit

変装名人な君-鉢屋三郎ページ21

隣町までお団子を買ってこいというお使い。

忍者の三病の一つに「敵を侮る」というものがあるけれど、それを鑑みても上級生の私からしてみれば何ら危ぶむ必要はなかったはずだ。

しかしながら、現在の私は異常なまでに警戒していた。というのも、お使いを共に任されたこの男が何をしでかすのか分からないからだ。

「どうしてそんなに距離をとるんだ。」

「別に私の勝手でしょ。」

「ま、そう言われてみればそうだな。」

鉢屋三郎。五年ろ組、学級委員長委員会所属。変装名人の名を物にする彼の素顔を知るものは居ないとされている。

そんなブラックボックス的な立ち位置に居る彼のことが、私は正直苦手だ。

(学園長先生も、どうして私と鉢屋にペア組ませたんだか……)

八つ当たりも良いところ、黙ったままの私を訝しんだのか、彼は自らの顔に手を添えてあっという間にその顔つきを変えてしまった。

「……あ、兵助。」

「どうだ？」

「え？」

ダメか、と呟いてまた面を変える。続いて、八左ヱ門、勘右衛門、六年生、下級生に先生方まで。もう学園内の人物は全て出しつくしてしまったんじゃないだろうか。

流石の彼も疲弊した模様。

どうして急に変装なんか、と尋ねれば少しムッとして返される。

「お前が私と出掛けるのが嫌そうだったから、せめて顔だけでも好みに合わせてやろうと思ったんじゃないか。」

意外だなぁ。簡潔にそう思った。

「別に嫌じゃないよ。」

「……」

「ただ、私たちは鉢屋の素顔すら知らない訳でしょう？だから、目の前に居る貴方が本当に鉢屋三郎なのかたまに分からなくなってしまうの。」

「……ふふ」

何故だか鉢屋は大笑いすると、斜堂先生の面を剥がして元の雷蔵の顔つきに戻した。

「ちょっと、そこまで笑わなくていいでしょ。」

「はー、心配して損した。」

「もう……」

するり、したらば私の左手に暖かな皮膚が触れる。後に包み込まれる。

驚いて犯人の方を見やれば、口元を押さえてくすりと笑みを溢した。

「顔は確かに私の物ではないけれど、声や動作や身体は十分な程に私らしさを残しているよ。」

「……そっか、じゃあ私は今鉢屋と手を繋いでいるってことか。」

しみじみとそう呟くと、彼はまた腹を抱えた。