【忍たま】日々平凡【短編】 (ページ11)

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意気地無しの二人-雑渡昆奈門ページ11

久しぶりに二人きりの夜。

雑渡さんは髪を梳かす私のことを後ろから抱き締めた。今更動揺することはない。これが初めてではないから。

とは言え、彼との奇妙な関係には特にこれといった名前が付いている訳ではない。

……というか、名付けるだけの勇気がないのだ。

お互いに。

「雑渡さんが甘えたになるなんて珍しいですね。」

小さく笑うと、彼は腕を回したまま返す。

「男の趣味か。」

「ん？」

「刺繍。太股のところにあるでしょ。」

「あー、そうでしたっけ。」

「そうだよ。」

自分でも忘れかけていたそれは、私が私という存在を忘れないようにするために彫ったもの。

こんな仕事をしていれば道端で死んでいても可笑しくないから、せめてもの支えにと思ったのだ。

……まぁ、確かに彫ったのは昔の男だけど。

それにしてもこの人は可愛らしい。

普段はいい加減で斜に構えた男の役をしているのに、二人きりになればこうやって素直になるのだから。

年甲斐もなく、心臓がぎゅーっと締め付けられた。

「妬けちゃうなぁ。」

「昔の男なんてどうでもいいじゃないですか。私が今見ているのは雑渡さんだけなんですから。」

「……」

彼は一瞬身体を強張らせた。
そして、ため息ついでに呟く。

「……全く、何処でそんな言葉を覚えてくるんだか。」

「えー？」

「Aには敵わないよ。」

そっと腕の力が緩められる。

背後から覗かせた彼の細まったそれと熱い視線を交わして、吸い込まれる様に接吻をした。

やはりこの関係性に名前を与える勇気はないけど、いっそのことそのままで良いと思った。

意気地無しでも弱虫でもいいんだ。

ただ、貴方と熱を分け合うことができれば……