ページ ページ32
*
鍛練に行くという同室を送り出して、自室に一人。
ゆらゆらと揺れる行灯の明かりは、この暗い夜で考え事をするのに丁度良かった。
伊作(初めてAと会ったのはいつだったろう。
……あぁ、あの日も蒸し暑い初秋だった。)
忍たま1「伊作、此処に仕舞ったからな。」
伊作「はーい。」
二度目の夏休みを終えた。
新学期初日から遅刻してしまっては選択肢なんて無くて、気付けばクラスの保健委員の座をものにしつつある彼だった。
伊作(まぁ、いいんだけどさ。先輩は優しいし、それなりにやり甲斐もあるし…)
不運だって慣れっこで、同室の留三郎が居れば無いも同然。
しかし、一つ不満を挙げるとすれば、保健委員会の最下級生がいつまでたっても伊作只一人だということだ。
同級生の長次は、自分の委員会に一年生が入ってきたことを自慢げに話していた。
折角二年生になったのだし、自分にだってその役回りが来ていいんじゃないかと期待していたが、生憎そうもいかないのだった。
伊作(夏休み明けだし、転入生位来るかと思ったんだけどなぁ。)
包帯を巻きながらそんなことを思っていると、襖が控えめに開かれた。
「失礼します。」
伊作(一年生…？)
確かに一年生だ。
しかし、その忍服の色は明らかに空色ではないので、直ぐにこことは別つ長屋からやってきた生徒なのだと分かった。
忍たま1「怪我？」
「はい。手を切っちゃって。」
忍たま1「うわー…酷い切り傷だな。伊作、傷薬を取ってくれ。」
伊作「はい！」
先に教えられた通りに棚の三段目から深緑の薬を取り出し手渡すと、先輩は赤く腫れた小さな手にそれを塗った。
伊作「…滲みる？」
恐る恐る尋ねると、その少女もそっと返す。
「……ちょっとだけ。」
伊作(しゃ、喋った！)
これが伊作とAの初めての会話。
即ち、彼が一年生と話した初めての瞬間だった。
初めての後輩にぎこちなくなる伊作を見て、先輩はくすりと笑った。
忍たま1「それにしても、何をしていたんだ。」
「戦輪の練習です。」
忍たま1「戦輪！？まだ一年生では習わないんじゃないか？」
「……どうしてもできなきゃいけないんです。」
伊作「…？」
ガーゼを当てられながらふと呟かれた言葉が変につっかえて、伊作は頭に疑問符を浮かべた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 192人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
かにかま(プロフ) - j061191さん» コメントありがとうございます。ご期待に添えますよう精進いたしますね(^^) (2020年7月19日 15時) (
レス) id: c18fa87c81 (このIDを非表示/違反報告)
j061191(プロフ) - まだまだ続きが楽しめるなんて嬉しいです…！受験とのことで無理なさらず…陰ながら応援しています (2020年7月18日 21時) (レス) id: ad5fefd1f8 (このIDを非表示/違反報告)
かにかま(プロフ) - j061191さん» コメントありがとうございます。勿論、アイ・アム・独身と言えなくなる日まで書くつもりでいます。実は、書きたい展開の二つくらいしか書けていないのです……。今後ともよろしくお願いします(^^) (2020年7月18日 10時) (レス) id: c18fa87c81 (このIDを非表示/違反報告)
j061191(プロフ) - 毎日更新楽しみに読ませていただいています。ネタバレになってしまうといけないのですが、名前を呼んでくれてキュンとしました。ここまで来たら独身→既婚になるまで読みたいなぁ、なんて…。じれったい関係はずっと続くのか！？続きも楽しみにしています！ (2020年7月18日 8時) (レス) id: ad5fefd1f8 (このIDを非表示/違反報告)
かにかま(プロフ) - j061191さん» コメントありがとうございます。ゆっくりですが、きっと真っ直ぐに向き合える日がくると思うので、その日までお付き合いよろしくお願いします！ (2020年7月14日 13時) (レス) id: c18fa87c81 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：かにかま | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/0660ea0a062/
作成日時：2020年7月5日 19時
