番外編#1 おもひで ページ47
no side
今年初の雪に村中が騒いでいる頃、少女は一人ため息を着いた。
今年開店したばかりの自身の仕立て屋で、新品のカウンターに体重を預けて。
少女(…ったく、何が雪だい。そんなもんが降っちゃ、客足が途絶えるだろうが。)
彼女は風物詩を純粋に楽しむには、合理主義すぎたのかもしれない。
だが、それも仕方ないことだった。
開店したばかりにも関わらず、店の収入はマチマチだった。…それに、色々と最近は腹立たしいことが多かった。
そんなことも相まって機嫌の悪い彼女は、また大きなため息を着いた。
カランカラン
珍しく扉の鈴が音を立てる。
うとうとしていた瞼を持ち上げると、そこに居たのは恋人の男。
腹が立つことが多かったと先に述べたが、その大たる理由は彼…則ち目の前の男の所為だった。
少女(約束の日に半年も遅れた癖に。)
よくのうのうと現れたものだと、頭のなかでは散々な文句を言ってみるが、自然と口元が緩んでしまうのが悔しかった。
青年「久しぶりだな。…その……夏に会えなくて悪かったな。まさか竜巻に巻き込まれるとは思わなくてさ。」
少女「…別に。」
ぶっきらぼうにそう返す少女を見て、相変わらずだなと青年は笑った。
青年「そういえば土産があるんだ。」
少女「開けて良いの?」
そう言って渡された包みには、深青の反物が几帳面に折り畳まれていた。それから、なけなしの小銭が数枚入っていた。
少女が顔を見上げると、青年は恥ずかしそうに顔を掻いて言った。
青年「本当はワンピースにしてやりたかったんだけど、仕立て屋に頼む程の金が無かった。だから、それで拵えて着てくれよ。」
少女「これだけの銭で、自分で作れって?」
青年「仕方ないだろ。船乗りの賃金は底をつくレベルだし。お前だって大して繁盛してないみたいじゃねぇか。」
少女「仕事を与えてやったとでも言う訳?本当に偉そうな男ね。」
青年「違ぇよ!………ただ、その色がお前に似合いそうだと思っただけだ。」
少女「…………ふーん。」
青年「俺が一番好きな海の色だからな。」
少女「…そう。」
あーもう、と恥ずかしそうに青年は目を逸らす。少女は、そんな彼を横目に小さく笑った。
そんなにでかい図体で、お世辞にもキザとは言えぬ
少女「ふふ、ありがとう。」
青年「…ん。」
彼女は漸く初雪に感謝した。
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金糖の少女 - 恋愛感情で動きを変えないという解釈…!!わかります!!自分も同じ解釈なんですけど恋愛小説ともなると難しいのでどうしても解釈不一致な作品ばかりになってしまうんですよね…(急募 語彙力) (12月15日 16時) (レス) @page46 id: ba14ff85c6 (このIDを非表示/違反報告)
かにかま(プロフ) - ひぃさん» コメントありがとうございます。シリアスなシーンが多い彼なので、創作の中だけでもほっと一息つける瞬間があって欲しいなと思い書きました(^^) お返事遅れてしまいすみません。 (2022年7月8日 0時) (レス) @page49 id: a48c4b505b (このIDを非表示/違反報告)
ひぃ(プロフ) - めっちゃ面白かったです!読み終わったあと、心があったかくなった感じがしました笑 (2021年5月27日 9時) (レス) id: 21a845e247 (このIDを非表示/違反報告)
かにかま(プロフ) - 凛太さん» コメントありがとうございます。そう言っていただけると嬉しいです(^^) (2020年11月11日 10時) (レス) id: c18fa87c81 (このIDを非表示/違反報告)
凛太 - めちゃ読みやすかったし、面白かったです!!! (2020年11月11日 6時) (レス) id: caca9cc888 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:かにかま | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/0660ea0a061/
作成日時:2020年4月12日 1時