#38 ページ39
ある日のこと、数週間ぶりに働きに出た仕立て屋はどんよりとした空気に包まれていた。
「…?」
おはよう、と調子のいい声も
相変わらずの間抜け面だな、とからかう声も無い。
怪訝な表情を浮かべたまま店の奥に顔を覗かせると、ひどく落ち込んだ様子で腰かける女将さんが居た。
「…おはよう、ございま……す。」
そうっと言うと、彼女はバッと顔をあげた。何時ものように笑っているつもりなのだろうが、目元にくっきりと残った隈が強がりを物語っていた。
女将「あぁ、おはよう。今日もアンタには裾上げをやってもらおうかね。」
「あの…」
女将「いや、そういえば喋れるんだっけか。店番も任せられるのね。」
「女将さ…」
女将「ははは、そりゃ頼もしいことだ!」
「…。」
女将「そういえば、この前一緒に来た男、随分イケメンだったじゃないか。アンタも隅に置けな___…」
「____何があったんですか。」
女将さんの話を遮ってそう切り出した。
流石にもう言い逃れできないと思ったのか、二三度目線をそらした後に彼女は大きなため息をひとつついた。
女将「………やっぱり分かるかい。」
「…。」
それから俯いたまま、彼女は声を震わせた。そして言ったのだ。
女将「ウチに嫁いでくれないか。」
「………………へ?」
何を言い出すのかと思えばそんなことを。今日はエイプリルフールとかいうやつだったっけか。
どうせ何時もの冗談だと軽んじていたが、彼女はいつになく真剣な視線で私を見る。そして、その心意気を後ろ楯するかのように私の手をとった。
…どうやら冗談ではないらしい。
「えっと…その…」
女将さんは狼狽する私との距離をじりじりと詰める。
「…あー………」
どうしよう。
何か返さないとこの駆け引きは終わりそうにない。
そう思ったとき、タイミングよく現れたカンタさんが私達を引き裂いた。
カンタ「母ちゃん!何やってんだよ!」
女将「アタシらにはもう時間がないんだよ!」
カンタ「だからってコイツを巻き込む必要はねぇだろうが。」
女将「…。」
そう言って私の手を引くと、外に駆けて行った。
カンタ「…ったく。」
苛立った様子で地面を蹴りながらずんずんと進んでいく彼。程近い公園に辿り着くとピタリと足を止め、私にベンチに腰かけるよう促した。
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金糖の少女 - 恋愛感情で動きを変えないという解釈…!!わかります!!自分も同じ解釈なんですけど恋愛小説ともなると難しいのでどうしても解釈不一致な作品ばかりになってしまうんですよね…(急募 語彙力) (12月15日 16時) (レス) @page46 id: ba14ff85c6 (このIDを非表示/違反報告)
かにかま(プロフ) - ひぃさん» コメントありがとうございます。シリアスなシーンが多い彼なので、創作の中だけでもほっと一息つける瞬間があって欲しいなと思い書きました(^^) お返事遅れてしまいすみません。 (2022年7月8日 0時) (レス) @page49 id: a48c4b505b (このIDを非表示/違反報告)
ひぃ(プロフ) - めっちゃ面白かったです!読み終わったあと、心があったかくなった感じがしました笑 (2021年5月27日 9時) (レス) id: 21a845e247 (このIDを非表示/違反報告)
かにかま(プロフ) - 凛太さん» コメントありがとうございます。そう言っていただけると嬉しいです(^^) (2020年11月11日 10時) (レス) id: c18fa87c81 (このIDを非表示/違反報告)
凛太 - めちゃ読みやすかったし、面白かったです!!! (2020年11月11日 6時) (レス) id: caca9cc888 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:かにかま | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/0660ea0a061/
作成日時:2020年4月12日 1時