幸せ ページ21
道の奥まで絶え間なく続く桜並木
風が吹く度に木々の枝達が揺れて
雨のように私達へ降り注ぐ
その瞬間、私の世界すべてが桜色に染まる
「っきれい……」
「はは、感動したか?」
「うん、凄く……」
久しぶりの外の世界はどれも新しい光景ばかりで、
私は常に驚きと感動の繰り返しだった
道中は人も少なく、この場所も誰一人いないので
杏寿郎はまだ人に抵抗感のある私に配慮してくれていたのだと悟った
きっと、人が少なくておまけに綺麗な桜並木だったから私をここに誘ってくれたに違いない
その優しさに胸がきゅっとなる
初めてのお花見、というかこの桜並木に目を奪われ
感嘆している私を微笑ましそうに見ている杏寿郎は
私を背負ってくれている
そう、背負ってくれている
「って杏寿郎、もう降ろしてくれて大丈夫だよ
ごめん気づくの遅くなっちゃって」
「よもや、そういえばそうだったな」
真正面から外へ出られない私を、杏寿郎は持ち前の身体能力を活かし
私を背負ってベランダから隣の家の屋根へと移り、ここまで運んで来てくれた
杏寿郎がゆっくりと屈んでくれて、
恐る恐る地面に足を着ける
家ではない、ちゃんと、外の地面
ジャリ、と砂の音がして自分がこの地の土を踏み締めているのだと実感が湧く
私、外にいるんだ
花びらが落ちて、桜の絨毯のような地面をまじまじと見つめる
「ここは気に入ったか?」
「うん、もちろんだよ
杏寿郎は?楽しい?」
「うむ、俺もとても気に入った!」
いつものように明るく笑う杏寿郎を見て
何とも言えない気持ちが込み上げる
こうして太陽の下で、誰かと一緒に桜を見ているなんて
少し前の自分からは想像も出来なかった
初雪が降ったあの日、杏寿郎と出会っていなかったら
今も私はあの部屋で一人、本を読んでいるだろう
「ねえ杏寿郎」
貴方が私を太陽の元へ連れ出してくれたんだよ
「なんだ?」
どうしても伝えたくなった
この気持ちを
擽ったくて何とも言えないこの気持ちが何なのか
今やっとわかった
私は一度も経験したことがなかったそれ
この人のおかげで知る事が出来たから
「私ね
今すごく幸せ」
"幸福"
この感情が何なのかずっと分からなかった
今までは程遠くて
「ありがとう、杏寿郎」
風が吹いて桜が私達の前を通り過ぎる
ありがとう、そう伝えた瞬間
自然と口角が上がった気がした
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珀(プロフ) - ゆうさん» 再度コメントありがとうございます。とてもとても嬉しいです(;;)諸事情で完結まで時間がかかると思うのですが宜しければ何卒、気長にお待ちくださいませ、、! (2020年12月7日 23時) (レス) id: b76cd08d2c (このIDを非表示/違反報告)
ゆう(プロフ) - 更新待っていました!続き楽しみにしています! (2020年11月22日 2時) (レス) id: e0580f81f7 (このIDを非表示/違反報告)
珀(プロフ) - りりさん» コメントありがとうございます。そんな…何回も読み返していただいてるなんてとても嬉しいです( ; ; )ゆっくりになるとは思いますが今後ともよろしく致します、! (2020年11月22日 1時) (レス) id: b76cd08d2c (このIDを非表示/違反報告)
りり - すごく素敵なお話で何度も読み返しています!無理せず更新頑張ってください。応援してます! (2020年11月18日 20時) (レス) id: 100354a5be (このIDを非表示/違反報告)
珀(プロフ) - 梟と烏の羽にさん» コメントありがとうございます。そのように言っていただいてとても嬉しく感じると共に、心温まりました。今後ともよろしくお願い致します。 (2020年11月14日 1時) (レス) id: b76cd08d2c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:珀 | 作成日時:2020年3月6日 0時