雪の華【煉獄杏寿郎】

束の間 ページ26

.


.


「今日も送ってくれてありがとう、杏寿郎」


「うむ、気にするな。


……A、少し話そう」


また陽が沈んだ頃ベランダに降り立てば

いつもはまた明日、と言って瞬きする間もなく去っていく杏寿郎が


いつになく真剣な眼差しで話そうというものだから


唯ならぬものを感じて


特徴的なその瞳に囚われて逸らせなくなった



「……どうしたの？」



「俺は明日から長期任務へ出ることになった。
少々辺境の地まで行く。」


「長期、任務……」


「そうだ。それ故この街も一時的に俺の担当でなくなり、
俺がいない間は他の隊士の担当になることになった。」


隊士、とか任務とか。


前から杏寿郎が帯刀が禁止されているにも関わらず刀を持っていたりとか

服装が何かの制服だということからなんとなくは察していたけれど


要するに杏寿郎と明日から一時的に離れ離れになるということなのだろうか



「それは……どれくらいなの？」



「ひと月かからないくらいだ。
そこで、Aに言わねばならないことがある。


結論から言うと、俺は鬼殺隊だ


この世には鬼という、人を喰らってその血肉で至福を満たす生き物がいる。
俺達はその鬼という生き物を、人間を喰らってしまう前に滅殺する組織だ

日々鍛錬を繰り返し、この赫き炎刀で鬼の頸を切るために弛まぬ努力を積み重ねる」


鬼殺隊…鬼……


そんなものがいるのか。

聞いた事のない単語に理解が追いつかないところもあるが

杏寿郎の眼差しから嘘偽りない事なのだと、


私に対して清澄な気持ちで向き合ってくれているのだとわかる


「今までは俺の担当地区だった故にAを直接守ることが出来た。

が、これからひと月程はそうはいかなくなる。
だから今ここで話した。

よく聞いてくれ。

鬼は夜に出る。

人間よりも遥かに身体能力が高く

忌々しい術を使うモノもいる

A、これから俺がいない間は

夜に決してベランダへは出るな。

俺の代わりの隊士は勿論充分強いから大丈夫だとは思うが、念の為だ。
」



「うん…わかった」



体裁よく返事をしたものの、まだ現実が受け入れられない。

だからあの初雪の夜、杏寿郎はベランダに来たり、屋根にいたと言ったり、夜は危ないと言っていたんだ。

……鬼が出るから。


常人ではない並外れた身体能力もそれ故なのだろうか。

ずっと自分が杏寿郎に守られていた事を知って、心が温かくなると共に更に離れるのが不安になった



またあの元の生活に戻るのだ

訣別→←再び

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す