＃或る男の独白４ ページ25
何も言えずに、二年が過ぎた。
いつまで経っても変わらぬ日常を
変えるなんて、とても出来なかった。
中学二年生の夏。
俺は雄英高校を志望していたため、
受験勉強はもう始めていた。
そんな中、Aからあることを聞いた。
『私、雄英は受けない。』
「な、なんでだ。
お前の学力なら、推薦だって狙えるだろう？
なのに、なんで。」
『雄英はヒーロー科に入らなければ、
意味が無い。
残念だけど私は。
私の個性じゃヒーローなんて目指せない。』
「そんなこと、無い。
だって、お前の個性は
珍しい精神操作系の個性だろう？
だったら、きっと･･･。」
『無理だよ。
だからさ、轟。
あのね･･･。』
プルルル
Aの携帯が鳴る。
画面を見ると、
Aは急いで電話をとった。
『はい。
どうかしたんですか。
･･･え!?
い、今すぐ行きます。
ごめん、轟、ちょっと用事が。」
「用事ってなんだ？」
一度訊いてしまったら、
もう歯止めが利かなかった。
『え、えと･･･。
母さんが、仕事から帰ってきて、
少しだけ、会えるって･･･。』
「本当に、ただの用事か？」
『･･･え、疑われているの、私。』
「･･･いや、やっぱりなんでも無い。
引き留めて悪かった。」
そう、とだけ呟いて、
Aは行ってしまった。
やはり俺には、あいつの口から
真実を聞くことは難しいらしい。
だが、一つだけ打開策があった。
家に戻る。
あの人にこんなこと訊いたら、
怒られてしまうかもしれない。
でも、それでも。
あいつのために何かしてやりたくて。
「ただいま･･･っ！」
「おかえり、焦凍。
どうしたの、そんなに急いで。
Aちゃん帰ってきてないから、
夕飯まだだよ。」
「話があるんだ、冬美姉さん。」
そう、冬美姉さんなら、きっと。
俺に真実を教えてくれる。
･･･この時の俺はまだ気付いていなかった。
自分が、“何の為”に
こんなことしているのか、なんて。
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作者名：Libra/はたはた | 作成日時：2018年11月8日 22時
