薬指に契約を【文豪ストレイドッグス】

人魚の王 ページ35

『に、任期…？』



中也が統治者として海を治める期間のこと…？



「俺の任期は、今の時点で残り約11ヶ月だ。海から離れると少しずつ力は弱まるが、海水に触れれば復活する。つまり、残りの期間中は、俺は自由に力を使える」

『う、うん…分かった』

「本当に分かってるか？A。これは手前にとって、重大な問題なんじゃねェか？」



私にとって？どういうこと…??

必死に頭を捻らせて考えていると、中也は再び口を開いた。耳元で低い声とともに吐息がかかり、肩が小さく震える。


「俺は、手前と結婚したい。でも、手前は太宰の野郎のもとへ行き、二人で国の存続に力を注ごうと考えてるんだろ？」

『………うん』

「Aと結ばれなくて嘆いた俺が、明日にでもこの国を津波で巻き込んだら、どうするつもりなんだ？」

『っ!?』



明日にでも津波でこの国を巻き込む？

なんて恐ろしいことを言うの…？



『ち、中也はそんなことしないでしょ…??』

「どうだろうな。仲睦まじい手前らを見て、嫉妬に狂っちまって、衝動的に…なんてことはあるかもな」

『そ、そんな…っ』

「今だって、力は使えるんだぜ」



そう言って中也は片手を海へ向けて動かした。

すると、暗闇の中で薄っすらと、私がいつも散歩する砂浜の水位が少しずつ上がっていくのが見えた。

途端に恐怖が襲ってきて、慌てて腕にしがみついて止める。



『やめて…！』

「大丈夫だ、元に戻す。手前に危害は加えねェよ」


手前には？じゃあ国はどうなの…？


「試しにあっちでもやってやろうか？」


そう言って次に手を向けたのは港町の方向。瞬間、顔が青ざめる。


『中也！お願い、国民を巻き込まないで…！分かった、分かったから…っ…』

「何が分かったんだ？」

『…ぁ』


後でしまったと思った。

中也は、私をこんなに愛していた。自然の恐怖に囚われて感覚が麻痺してしまったのか、中也の愛は治の時よりも重いものに感じた。

一国を巻き込むことすら厭わない、中也の私への思い。




『中也と結婚する…だから、海を守って下さい』



そこに、私の心は…。



「おう…手前のためなら、何百年でも守ってやる」



後頭部に手を回され、顔が近づく。そこで私は、人生で初めてのキスをした。

いつの日か、治にファーストをくれって言われたっけ…。その後、私はホールに戻れなかった。

こんなはずじゃ　中也side→←もう一つの道

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