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誰も居ない帰り道。6月の夕方の空はまだ明るくて、月がまだ白く見える。雨上がりのせいか、少しだけ肌寒い。
あの後、普通に教室に戻って、普通に授業を受けた。
その間京本と話すことは無かったけど、それでもしばらく気持ちはふわふわと浮ついていた。
濡れた地面で足を滑らせないように、ゆっくりと坂道を下る。ほとんどの生徒が自転車通学の中、自転車用のステッカーをまだ渡されていない俺だけが自転車集団に追い抜かされて、1人とぼとぼと歩いている。
編入試験やら手続きやらでもう既に歩き慣れた道だったけど、制服を着て歩く道は新鮮に思えた。
「ただいま」
「ほくちゃんおかえり。学校どうだった?」
「…まあまあかな」
「そう。悪くないならよかった」
玄関の引き戸を開けると、夕飯の支度をしていたおばあちゃんがすぐに笑顔で出迎えてくれた。
今はこの村でおばあちゃんと二人暮らしをしている。両親は仕事の立場上、簡単に仕事を辞めたり転勤することが出来ず、引越しの当日に心配そうな表情で見送ってくれたことは記憶に新しい。
「お父さんお母さんに電話した?」
「まだ仕事中かもしれないからもうちょっと後に電話しようかな」
「そうね。…そういえばほくちゃん学校でお友達は出来た?」
「あー…うん。出来たよ」
「あら、どんな子?」
「京本って言うんだけど、マンガとか好きらしくて結構よく喋るような感じの、」
「京本…って言ったら大我くん?」
「え、知ってるの?」
「知ってるも何もほくちゃんが新しく通院してるとこ、大我くんのおじいさんがやってるのよ。看板に大きく京本医院って書いてあったでしょ?」
「どうだろう、見てなかったかも…」
先週行ったばかりの病院の外観を思い出してみるけど、やっぱり看板は見ていなかったみたいだった。俯いて歩きがちだから、上にある字なんて中々見ない。
「大我くんのおじいさん、おばあちゃんの同級生でね。今でもよく畑の野菜をお裾分けしに行ったりするのよ」
「そうなんだ」
「お友達ならこれからはお裾分けしに行くの、ほくちゃんにも頼もうかしらね」
「え、」
「あ、お家分かんない?医院の近くに大きな日本家屋あるでしょう?あそこね」
京本のおじいちゃんって医者なんだ、とか前に見たあの大きな日本家屋は京本の家だったんだ、とかいろいろな考えが巡るより先に、これから友達の家へ行くかもしれないという事実が、必要以上に重くのしかかってきてしまった。
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作者名:とほほ〜 | 作成日時:2023年5月8日 1時