小悪魔プリンス (ページ8)

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08. ページ8

「ご飯がすごいんだって♡」

「へぇー。何か特別なコースとか？」

「ブュッフェなんだけど、そのへんのホテルとはレベルが違うらしい。
って口コミで見た」

毎年恒例の社員旅行が、今年も決まった。

店舗を休業するわけにいかないため、2班に分かれて行われている。

「今年もまりと一緒だねー♡」

「幹事ももうそこは変えないでしょ(笑)」

「ね。あの子は？
社員旅行……温泉……何かあっちゃったりして♡」

珈琲に口をつけたトコロで、

k『せんぱーい。先輩せんぱいっ』

タイミング良くか悪くか、飛んできて。

思わず吹いてしまった。

k『も〜、何してるんですか(笑)』

「急に来ないでって言ってるでしょ」

k『急じゃないですよ。呼びながら来たじゃないですか。ねぇ？』

「ねぇ♡」

「………、」

すっかり同僚と仲良くなったらしく。

何かと言って、彼との事件を企んでいる。

「で？何か」

k『あれ？何でしたっけ？』

頭が悪いワケではないと思うんだけど。

興味が散漫なのか、執着がないのか。

いろんな事をすぐに忘れる。という、特技を持っている。

だから、思い出すために考える。という動作を、彼はあちこちでしなくてはいけない。

あたしは、その。

何かを考える。時の、彼がすきで。

自分の仕事をしながら、よく盗み見ている。

k『何もないっす(笑)
先輩は何話してたんすか？』

「岸君。社員旅行だよ♡」

すかさず同僚がパスを出すと、

k『そうそうそうですよ！旅行！
先輩と一緒だって教えたくて(笑)』

にっこにこしながらあたしと同僚を視線で往復している彼の前世は。

きっと何か、特別な小動物だったに違いない。

「………うん(笑)」

k『楽しみですね(笑)』

無邪気に笑える彼が。

どうしてあたしに笑いかけるのか。

モノゴトを斜めからしか見ることの出来ないあたしは。

いつも、酷く不安になる。

適度な距離を置く。

余計なコトは、言わない。
聞かない。

そうすれば。

ココロに彼を入れなくてすむから。

残っていた珈琲を飲み干すと、始業ベルが鳴った