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“お嫁さんになりたい”
そんな、小さな頃の。
誰もが笑い話にした様な夢を。
あたしはまだ、本気で願ってる。
だから。
どうしても、この仕事がしたくて。
大きな式場を抱える、この会社の面接を受ける。
幸せの瞬間を。
ここに来る人の笑顔を。
想像しただけで、きらきらした気持ちになれるから。
こんな、素敵な職業が、他にあるだろうか。
面接は、初めての事。
何聞かれるのかな。
偉い人が、いっぱい居るのかな。
あ、前髪。変じゃないかな。
自分の番を待つ間、いろんな事が気になって。
じっとなんてしていられない。
椅子に座って、名前を呼ばれるのを、息を飲んで待つ。
ドキドキして、でもちょっと楽しみで。
初めて着たスーツの、スカートの裾を握りしめる。
「はぁーーーーー、」
大きく息を吐いた直後、ぶふっ。って、
笑い声が聞こえた。
顔を上げると、少し離れた所に、同じように椅子に座っている男の子が居て。
目が合うと、崩れた笑顔をみせた。
「こっ、こんにちは」
人と目が合ったら、挨拶をしなさい。
母の教えが、すっかり身についていて、思わず声をかけた。
s『しーっ！声が大きいよっ』
口元に人指し指をあてて、あたしを制する。
その、白くて歪みのない指先に。
「お待たせしました。
五十嵐さん、五十嵐ひなこさん。
お入りください」
名前を呼ばれて、我に返る。
「はいっ」
部屋に入る、一瞬。
彼をふり返る。
と、
目が合った彼が、親指を立てて。
はにかんだ様な、笑顔をくれた。
人と人との出会いなんて、
一瞬の出来事なんだから。
その、一瞬を、見逃さないように。
しっかり目を開いて。
前を向いて歩きなさい。
後は。
ゆっくり考えなさい。
間違えないように。
後悔しないように。
でもね。
例え、間違えても。
それは全て、あなたの運命だから。
そうなる様に、世界が回っていただけ。
自分を責める必要なんて、1つもない事だけは。
忘れないで。
夕暮れの、オレンジ色を見上げて。
母の言葉を、思い出した
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作者名：とあ | 作成日時：2018年9月20日 21時
