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「帰らないの？」
業務日誌を書きながら、背後から感じる視線に声をかける。
r『帰れないんですよね。』
他のバイトの子は、打刻した瞬間に帰るけど。
彼の声には、抑揚がなく。
いつも、同じ温度に思える。
「……今日も来るの？」
r『ダメですか？』
「そうじゃないけど、」
・
・
・
してみたい。と言われた時。
1度きりだと思った。
若さを持て余している彼等の、あわよくば的な、興味なんだと思った。
「え？」
r『聞こえませんでした？
今日も行ってもいいですか？って俺今言いました。』
「……うん、わかった」
r『じゃ。あとで。』
彼の笑顔を見たのは。と言っても、満面の作り笑顔だったけど。
それが、最初で最後だ。
・
・
・
彼がココに来るのは。
何回めだろう。
特に何かを話すワケでもなく。
タオルを渡すと、シャワーに向かう彼の背中を眺める。
いつか。
きっと、そう遠くないいつか。
彼が、あたしに飽きるまで。
r『ねえ。』
突然、近くで声がして。
目を開けると、彼の顔が目の前にあった。
「っ、」
r『今日は帰ります。』
「ごめ、寝ちゃってた」
ゆっくり瞬きをすると、鼻で笑って。
r『どうして謝るんですか。』
って言いながら、玄関に向かった。
r『じゃ。』
「うん」
鍵をかけると、彼が触れなかったシーツに寝転ぶ。
ちょうど放ってあった携帯が点滅して、
￣￣￣￣￣￣
おやすみなさい。
￣￣￣￣￣￣
やっぱり、短いメッセージが届く。
それを確認すると、浴室に向かう。
ドアを開けると、まだ室内は温かくて。
彼が、当然のように使うポンプに手を伸ばす。
どれも、これも。
彼と同じ匂いがして。
突然。
会いたい。と思った。
できれば。
会いたくなかった。
彼のコトは、何も知らない。
ただの、従業員同士。でいたかった。
静かなオトコノコ。というだけの存在でいてほしかった。
どうしてあの時、NOと言わなかったんだろう。
言えなかったんだろう。
知らなくていい彼を、少しづつ知る度。
あたしは後悔する。
だって。
きっと。
永瀬君をすきになるコトは、ないから
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作者名：とあ | 作成日時：2019年5月7日 19時
