raison d'etre (ページ1)

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「あめ、」

r『なに？』

「……なにも」

ティシャツに腕を通しながら、面倒くさそうに振り向いた彼を見て。

言葉を飲み込んだ。

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いつからだったか。

雨が降るのが分かる様になった。

気候の変化に伴って、頭痛が始まる。
ついでに、身体が重くなったりもする。

すると、必ず雨が降って。
やっぱり。と、独り言をもらすコトになる。

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r『じゃ。』

「うん、」

彼は。永瀬君は。
仕事先に、バイトで入ってきた。

他の子に比べて口数の少ない、静かなオトコノコ。

頼んだ仕事はきちんとやるし、特に問題はなかった。

r『彼氏。います？』

ある日。唐突に。

そう話しかけられた。

「………いない、けど」

事実を答えると、

r『内田さんと。してみたいなってずっと思ってて。嫌ですか？』

気持ちいい程はっきりと、簡潔にそう言われて。

なぜか、断る理由がみつからなかった。

ほとんど毎日、職場で顔を合わせる彼を。
特に意識するコトも、避けるコトもなく。

相変わらず淡々と過ごせる自分も、彼も。

気持ちが悪いと思った。

しいて言うなら。

備わっているべき感情の何処かが欠けているような。
初めから足りないような。

そんな。

「うそ……薬ない、」

窓を叩き始めた雨粒を睨みながら、小さく息を吐いた。

床に放ったままになっていた服を身につけながら、1番近いドラッグストアを思い出す。

どこかで買ったビニールの傘を握ると、こめかみの少し上をおさえながら。

夜の道を走った