【HQ!!】ケンゼンです。【岩泉一】

じゅうに ページ16

…



「ご、…ごちそうさまでした…」



ぺちり、と乾いた音で合わせた自分の掌
そして少し溜息を漏らしていると、また自然な動作で先輩は私の頭に手を乗せ、ぽんぽんと軽く触る



「おう、結構な早さで掻き込んだな」



少し身を屈め、私の顔を覗き込むようにして笑う先輩にまた”ぎゅっ”っと胸が締め付けられた気がする


…先輩の笑顔はいつか私の鼓動を止めてしまうのでは、と本気で考えることも最近は多々ある。(付き合わせてもらう前もそうだったけど最近は特にだ)




ちらり、と顔を少し上げると思った以上に先輩との距離が近くて少しビクりと体が跳ねる



それをじっと見つめた先輩は、私の頭に乗せていたその手をゆっくりと下に滑らせて行く
その柔らかな撫で方に少し官能的なモノを感じ恥ずかしくなって、上げたばかりの視線を落とそうとした、その時





「…吉田」






呼ばれた名前にぴしり、とその動作を終了させる。
少し掠れた声。しかしハッキリした意思を感じさせた…声




降ろしかけた視線をゆっくりと持ち上げると
次第に先輩と目が合う

特に威圧されている訳ではないはずなのに、何とも言えない重圧を感じる


蛇に睨まれた蛙、と言えばいいのだろうか？いい得て妙かも知れない





「…亜美、」






ぐるぐると考えを巡らせている中先輩が口にしたのは私の”名前”だった


かあっ、と顔が熱くなる
胸が苦しい
頭が回らない




「いっ、いわいずみ、せんぱ…」

「…はじめ」

「！！」

「呼べよ、…亜美」





わざとなのか、どうなのか突然少し下げられた声のトーンに本能的に私の頭は反応する
そしてそのまま、聞こえたまま復唱する子どものように私は、



「…は、…はじめ…先輩…」



彼の名を呼んだ。









「……おまえ、なぁ…」








少しの沈黙の末、恐る恐る先輩の様子を伺うと少し赤く見える頬


あ、…なんて思っている内に、先輩は、頭に添えられていた自身の手をぐっと自分の方に引く
そうすると自然に引き寄せられる私の頭、それに連結した体。



…世に言う、抱き寄せられた状態。


ふわり香る先輩の匂いに包まれるのを感じる。
また息が詰まる、クラクラとしてしまう程の彼の優しい香り





「…ったく、お前は本当俺を…」



先輩が零した言葉は生憎、彼自身の胸元から聞こえる少し早い鼓動に掻き消される
やっぱり。せんぱいも緊張してるんじゃないか







(煽んの上手いな。そんな彼のシグナルは聞こえない)

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