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｢え、僕グルちゃんとこの幹部やで？｣
｢…えっ｣
｢どうも鬱です〜｣
彼はへらりと笑ってひらひらと軽く手を振る。
なにがなんだか分からずにハテナを浮かべていると、隣の令嬢が小さく悲鳴をあげる。
どうしたのかと彼女を見やると、顔を青くして震えていた。
｢た、大変申し訳ございませんでした…！そうとは知らず、｣
｢いやぁええよ、こんなカッコしてたらそう思ってもしゃあないよな｣
目の前の彼はケロッとした様子でそう言ったが、彼女は未だに顔を真っ青に染めて下を向いている。
まるでとんでもないことをしてしまった、という様子の彼女だがこの場でただ1人なんの情報も持たない私には事の重大さが理解できなかった。
確かにお得意先の社長に舐めた口をきいたら即日クビかもしれないが、彼がそこまで上の立場だとも思えない。
彼は通りかかったウエイトレスを止めてグラスを2本分受け取り、空のグラスを私から取ってトレーに乗せた。
｢はい。折角やから乾杯してもええ？｣
カラン、と氷の音を鳴らしてグラスを傾ける。
前髪に目が覆われているが、よくみたらとんでもなく美形だ。ふっと目を細めて微笑まれて、顔が良いなと思ってしまうのを避けられない。その時にきらりと目が赤く光った気がしたが、乾杯しないのかと問いかけるように首を傾げたので自分もグラスをあげた。
是非、と了承してグラスをカランと鳴らす。
彼はぐっとシャンパンを一気に飲み干して、またにこりと微笑んだ。
｢名前なんていうん？｣
｢えっと…Aです｣
｢Aちゃんね。ラストネームは？どこの家門？｣
｢えっ｣
ーーー本名、みょうじAなんだけど、どうしよう。
固まっている私を不思議そうに見る令嬢と、令嬢と令嬢。
確かに漫画やアニメでよくあるのは○○○○・×××のような名前の組み合わせだ。名前は他の令嬢達に知られていたので名乗っても問題ないと踏んだが、まさか名字・・・ラストネーム？を尋ねられるとは予想もしていなかった。下手な偽名を使うのも、本名を名乗るのも恐ろしい。どうしたものかと言い淀んでいると、目の前の彼が意味深にくすりと笑みを浮かべる。
｢ごめんな、初対面やのにズカズカ行きすぎたな。せやな、よかったらあっちの方で話さへん？2人で｣
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作者名：柚
| 作成日時：2023年12月17日 17時
