令嬢、夢から醒めたい【d!】 (ページ6)

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ーーーいや、誰よ。

ははは、と笑みを浮かべるものの笑顔が引きつる。
誰かも分からない話をされるのはただでさえ疎外感を感じるのに、こちらが知っていて当たり前のように会話を続行されると余計に居心地が悪い。というか、気まずい。ていうか、目の前の女性方、全員誰よ。

シャンパングラスを持ってきたウエイトレスににこりと会釈して、グラスを受け取る。

話を聞きつつごくりと一口飲むと、あまりの飲みやすさに目を見開いた。
フルーティーな香りにほんのりワインの味も隠れていて、会社の忘年会で飲むシャンパンとは別格に美味しかった。シャンパンと呼ぶよりワインの方がしっくりくる味だけれど、それにしても物凄く美味しい。

何口か飲んでいたら飲み干してしまったようで、ガラスが氷のみで空になっている。
新しいシャンパンをもらおうと軽く手をあげてウエイターにアピールしていたら、ウエイターとの間にいた男性と目が合ってにこりと微笑まれる。流れるように会釈して延長線上のウエイターに視線を送っていたら、いつの間にか先程目が合った男性がひらりと手を振って目の前に立っていた。

｢おはようさん｣
｢わ、…おはようございます……？｣
｢自分どこの子なん〜？｣

距離が近かったので一歩下がると、半歩前に近寄られて徐々に距離を詰められる。

このフロアにいる全員ほとんどが上等で煌びやかな衣装を身に纏っている中、1人だけ黒いスーツを身を包む彼は、遠くから見ても異様だった。加えてネクタイもずれているし、前もしっかりボタンが止められておらずちゃんと着こなされていない。
使用人と呼ぶにはオーラが全く別物で、挨拶をしたっきり黙り込んでいると、声を出そうとした私を隣にいた令嬢が手で制した。

｢ちょっとあなた、使用人の分際でA嬢に話しかけるなんて無礼ですわ｣

先程の惚気話をしていた際の声色とは180度変わって、想像出来ない程の声で彼を威嚇した。
得体の知れない人物の声掛けとはどの状況においても不安は募る訳で、こちらも名も知らない令嬢だけれど、ぐんと好感度があがる。きゅんとときめいて、両手を合わせてキラキラした目で彼女を見つめていたら、彼女は不思議そうにハテナを浮かべる。