マイポートレイト ページ34
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昔から、ハマるととことん追求するタイプだった。
百人一首も、筋トレも、ゲームも、クッションもそう。
喧嘩だってそのうちのひとつだ。
生まれたのは“たぶん”普通の一般家庭。
共働きの両親に、少し年の離れた兄。
普通じゃない点と言ったら、
兄が警察とご飯を一緒に食べに行くほどお世話になっていること、
母は夜勤、父は単身赴任の為
家族全員が揃うことはほぼ無い、ということだろう。
両親は仕事が忙しいのもあってか、究極の放任主義で、兄は滅多に家に帰らない。
家族団らんというのを経験したことがなかった。
その寂しさを埋めるためか、
気付くと好きになったものにはとことんのめり込む子どもになっていた。
喧嘩にはまったきっかけと言うのは、ほぼ兄のせい。
中一の頃、
兄がボコボコにした不良グループに｢妹だから｣という理由で人質として拉致されかけた。
不良に囲まれたあたしは、当然怯えていた。
少し前までランドセルを背負っていた子供だったのだから、当たり前だ。
だんだんと近づいてくる不良の1人についにあたしはパニックになって、
思いっきりその顔面を殴ってしまった。
普通の女子中学生の攻撃なら、全く効かないだろう。
でもあたしは
小さな頃からの兄との殴り合いで覚えた拳の入れ方、
最近ハマりだした筋トレでついた力、
と、普通の女子中学生じゃ持ち得ないものを備えていた。
気づいたら、周りには倒れてる不良たち。
立っているのはあたしだけだった。
何があったかは覚えてない無い。
ただ、腫れた拳の熱さに、
異様に興奮したことを覚えてる。
それからは、喧嘩三昧の日々だった。
喧嘩の相手は、兄に恨みを持ってる奴とか、
女の子にナンパしてた奴とか、その辺にいた奴とか
それまで一生懸命打ち込んでいた水泳部も、喧嘩のせいで大会に出場出来なくなり、最終的には強制退部させられた。
凄く強かったわけじゃない。どちらかと言うと、ボコボコにされる方が多かった。
でもあたしがピンチになると、どこから聞き付けたのか、
必ず兄が現れた。
兄はものすごく喧嘩が強かった。
あたしのピンチに颯爽と現れては、相手をメッタメタにして去っていく。
悔しいことに、兄のおかげで、あたしの名前はだんだんと有名になっていったのだ。
井上 Aに気をつけろ。
さもなくば井上 弘樹に殺されるぞ。
これが至くんに出会うより、だいたい一年くらい前の話である。
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作者名：野次 | 作成日時：2018年8月12日 18時
