インビジブル・ラブ 9 side T

微かな希望 ページ49

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ピンポーン。

チャイムが鳴って、ハッと目を開く。
…忘れ物？
A、戻ってきた？
やっぱり別れたくない、って。
あの、最近の憔悴具合からしたらない話じゃない。

もつれる足を動かしながら秒速で玄関に進み、ドアスコープも確認しないまま力任せにドアを開ける。



「…っと、宅急便でーす。」

「…あ、」



ケーキ、とか何とか言ってたな、A。

気まずそうにお兄さんが顔を逸らす。
流れるままサインを貰って、
楽しんでくださーい。
って、無愛想な声で言われたけど全然楽しくならないから安心して欲しい。

リビングに戻って白の箱を開封する。
思った通り、そこには綺麗ないちごのホールケーキが乗っていて。



「…気に入ったんじゃん、馬鹿。」




去年、あれだけ甘い甘いって騒いでた、
砂糖の塊のオブジェ。
サンタさんとトナカイが仲良く並んでるそのモニュメントは、
伝票を見れば追加で付けたようで。



「…馬鹿だねえ、ホント。」



馬鹿だよ。
学んだんじゃないの？
俺に食べさせたじゃん、コレ。
食べたくなっちゃったんだ？
今年ならいけるかも、って思ったのかな？

本当に、馬鹿。
衝動のままサンタとトナカイをつまんで口の中に放り込めば、
例年よりも甘さを失った、なんなら少しだけ苦い味が口内に広がる。



「…まず、」



俺嫌いって言ったじゃん。
また今年も食べさせるつもりだったのかな？

ケーキ、届いたよ。

そんなLINEをしてみようかな。

ああ俺、めっちゃ未練タラタラじゃん。

ジャリジャリ、砂糖を噛み砕きながら無心でケーキを食べ進めた。
止まったら、余計な事を考えて泣いてしまいそうで怖かった。


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